東京都「アフォーダブル住宅」とは|メリット・デメリットやファンドの仕組みを解説

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Category: 住宅業界動向

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「アフォーダブル住宅」についてピックアップします。東京都では、家賃高騰が続く都市部でも無理なく暮らせる住まいを確保するため、「アフォーダブル住宅」の供給を進めています。

手頃な家賃で中間所得層が安心して居住できる新しい住宅モデルで、子育て世帯支援や空き家活用など多様な社会課題の解決にも期待が高まっています。本記事ではアフォーダブル住宅の概要や背景、メリット・デメリット、さらに民間活用による仕組みまで分かりやすく解説します。

アフォーダブル住宅とは|東京都が推進

アフォーダブル住宅とは、一般的な家賃よりも手頃な価格で供給され、所得に応じて無理なく居住できる住まいのことを指します。

現在東京都では、民間開発やファンドの仕組みを活用しながら、中間所得層を主な対象として家賃負担を抑えた「アフォーダブル住宅」を確保する取り組みを推進しています。地価・家賃の高騰が続く都心部でも居住の選択肢を確保し、働く世代が安定して生活できる環境を整えることを目的としています。

背景

アフォーダブル住宅の背景としては、人口の都心回帰や地価上昇により一般的な民間賃貸の家賃が高騰している現状が挙げられます。これにより、働く世代や子育て世帯等が住まいを確保しにくい状況が課題となってきました。

そこで東京都は、民間事業者・ファンドの活用や規制緩和を組み合わせることで、安定的な供給と長期的な入居しやすさを確保する仕組みづくりを進めています。住宅確保の選択肢を広げることで、都市の持続的な成長と生活の質向上の両立が期待されています。

「官民連携アフォーダブル住宅供給促進ファンド」とは

出典:東京都,官民連携アフォーダブル住宅供給促進ファンド,https://www.sangyo-rodo.metro.tokyo.lg.jp/gfct/initiatives/green-finance/affordable-fund,参照日2025.12.4

東京都では「官民連携アフォーダブル住宅供給促進ファンド」を立ち上げ、住宅環境の整備に取り組んでいます。事業概要は、下記の通りです。

  • 都と民間が連携してファンドを立ち上げ、子育て世帯等へアフォーダブルな賃貸住宅を供給
  • 都が合計100億円出資して複数のファンドを創設し、民間出資と合わせ、ファンド規模として総額200億円以上を目指す
出典:東京都,官民連携アフォーダブル住宅供給促進ファンド,https://www.sangyo-rodo.metro.tokyo.lg.jp/gfct/initiatives/green-finance/affordable-fund,参照日2025.12.4

官民連携アフォーダブル住宅供給促進ファンドには、SMBC信託銀行や野村不動産といった民間業者が参画する予定です。

UR・公営住宅との違い

UR賃貸住宅や公営住宅は、主に低所得者層の居住支援を目的としています。一方でアフォーダブル住宅は、“中間所得層”を主な対象としている点が大きな違いです。

「公営住宅」は自治体が管理し、入居資格や収入基準が厳しく設定される形式です。そして「UR」は初期費用が少額で入居可能といったメリットはあるものの、家賃は市場水準に近く、負担はそれほど軽くありません。

これに対しアフォーダブル住宅は市場家賃より抑えた水準で供給され、比較的柔軟に利用できる設定となっています。公的住宅と一般賃貸の間を埋める「新たな住まいの選択肢」として位置付けられている点が特長です。

アフォーダブル住宅の概要

ここでは、東京都が手掛けるアフォーダブル住宅の概要について解説します。

【参考】官民連携アフォーダブル住宅供給促進ファンド運営事業者募集要項

建物条件

  • 対象地域は東京都内。とくに利用者のニーズや不動産価格、賃料相場の動向等を踏まえ、事業として成立可能性が高い地域。
  • 昭和56(1981)年6月1日以後に確認申請をして、確認済証の交付を受けたものであること。1981年以前に建築されている場合、地震に対して安全な構造であることが条件。
  • 広さは原則として、床面積(共同住宅等の場合は住戸専有面積)で 45 ㎡以上。
  • 居間、食堂、台所その他の住戸の部分について、共同して利用するために十分な面積を有するスペースを設置する場合は 40 ㎡以上。また子どもの安全の確保や、快適な子育てが可能となる設備等を有していることが望ましい。
  • ひとり親世帯など、世帯人数が少ない世帯の入居を前提とする場合等の住戸の広さについては、この限りではない。

対象者・家賃

  • 入居対象世帯は、子育て世帯(18 歳未満の子を養育する世帯)等。
  • 家賃は、近傍同種の賃貸住宅の家賃より低廉な水準とし、入居者にとって求めやすい水準に設定。なお家賃設定の基準とした市場家賃の水準については、運営事業者が算定の根拠を示す必要がある。

スケジュール・申し込み方法

2025年11月に、官民連携アフォーダブル住宅供給促進ファンドの運営事業者候補が選定されました。2025年12月時点では、入居募集や申し込み方法等の情報は公開されていません。

アフォーダブル住宅のメリット

ここでは、アフォーダブル住宅のメリットについて解説します。

子育て世帯支援につながる

アフォーダブル住宅は住宅費負担が軽いため、子育て世帯が生活費を教育費・養育費に回しやすくなる点が大きなメリットです。とくに東京都心部や利便性の高いエリアだと通勤負担が減り、保育園・学校へのアクセス向上にもつながります。

時間的・経済的余裕が生まれることで、家庭のQOLも向上します。

空き家問題の解消

アフォーダブル住宅は、老朽化や需給ミスマッチにより利用されていない住宅ストックを活用する場合もあります。住宅価格の高騰が障壁となっている層に住まいを提供することで、空き家活用と居住支援を同時に実現できる点は大きなメリットです。

適切に修繕・リノベーションすることで、空き家の放置による治安悪化や景観の低下も防げます。これにより、地域全体の住宅循環を促す役割も担っています。

地域コミュニティの再生

子育て世代が居住しやすいアフォーダブル住宅が供給されることで、地域コミュニティ活性効果が期待できます。異なる年齢層や家族構成の住民が共存することで交流が生まれやすくなり、防犯意識向上や見守り体制強化にもつながります。

また空き店舗や共用スペースの活用を通じたイベントや子どもの遊び場の創出など、住民同士のつながりが育まれるのもメリットです。

アフォーダブル住宅のデメリット・問題点

アフォーダブル住宅は新しい取り組みのため、デメリットや問題点も存在します。

住宅供給の確保が課題

アフォーダブル住宅の家賃は市場価格より安いため、事業者側の収益が伸びにくく、十分な供給量を確保できるかが課題となります。とくに地価の高い都心部では建設費や土地取得費の負担が大きく、採算性を確保しながら家賃抑制を実現するには慎重な計画が求められます。

民間業者の協力が必要

アフォーダブル住宅は民間開発やファンドの活用を前提としているため、事業者の参画意欲が制度の持続性を左右します。家賃設定を抑える代わりの開発コスト支援や税制優遇が示されなければ、企業にとって魅力的な参入条件とは言い切れません。

また採算確保を優先した場合、立地が限定され都市の利便性が十分に確保されないケースも想定されます。行政と民間の役割分担が曖昧だと事業が停滞する可能性があり、制度設計には継続的な調整が必要です。

まとめ

アフォーダブル住宅は子育て世帯の家賃負担を軽減する取り組みで、子育て支援や空き家問題の解消、地域活性化など幅広い効果をもたらします。

一方で、供給確保の難しさや民間事業者の協力が不可欠といった課題も抱えており、制度が持続的に機能するには丁寧な政策設計が求められます。今後の施策や供給スピードに注目が集まっており、都市における住宅の選択肢を拡げる新たなモデルとして、進展が期待されます。