店舗併用住宅の間取り実例|住宅ローンや火災保険の注意点もチェック

トレンドワード:店舗併用住宅
「店舗併用住宅」についてピックアップします。店舗併用住宅とは、自宅と店舗を一つの建物内に併設した住まいのことです。自宅で事業を進められるため、通勤時間や家賃の削減など多くのメリットがあります。
近年では自営業者やフリーランスの方を中心に注目されており、効率的な暮らし方を実現できる選択肢のひとつです。本記事では店舗併用住宅の気になる住宅ローンやメリット、注意点まで幅広く解説します。
店舗併用住宅とは|建築基準法の定義
ここではまず、店舗併用住宅の概要について建築基準法の定義から解説します。
「併用住宅」の主な種類
併用住宅は、主に下記のような種類に分類できます。
- 店舗併用住宅:住宅部分と店舗部分が同居。1階が店舗、2階が住宅という構造が多い。
- 賃貸併用住宅:自宅に賃貸部分(アパートや店舗)を設け、家賃収入を得る。
- 医院併用住宅:医師・歯科医師などの診療施設と住宅を併せ持つ。
この中でも店舗併用住宅は汎用性が高く、住まいと仕事の場を同時に確保したい場合に向いています。
店舗併用住宅の条件
建築基準法で定められている店舗併用住宅の条件は、下記の通りです。
①用途地域
用途地域とは、地域の景観や安全性を守るための制限です。店舗併用住宅が建築可能な用途地域は、下記の通りです。住居系や商業系地域には、条件を満たすことで建築できます。
- 第1種低層住居専用地域
- 第2種低層住居専用地域
- 第1種中高層住居専用地域
- 第2種中高層住居専用地域
- 第1種住居地域
- 第2種住居地域
- 準住居地域
- 近隣商業地域
- 商業地域
ただし下記の用途地域では条件が設けられているため、注意しましょう。
用途地域 | 条件 |
---|---|
第1種低層住居専用地域 | 店舗部分の床面積が50㎡以下店舗部分の延床面積が建物全体の半分以下原動機の出力は0.75KW以下 |
第2種低層住居専用地域 | 店舗部分の床面積が150㎡以下店舗部は2階以下に設けること原動機の出力は0.75KW以下 |
【参考】
e-Gov|建築基準法施行令 第130条の3、第130条の5の2
一方で工業系の下記用途地域には、店舗併用住宅は建てられません。
- 準工業地域
- 工業地域
- 工業専用地域
②店舗の用途制限
とくに第1種低層住居専用地域と第2種低層住居専用地域には、建てられる店舗の種類に細かい用途制限が設けられています。
用途地域 | 建てられる店舗の種類 |
---|---|
第1種低層住居専用地域 | 事務所日用品の販売を主たる目的とする店舗又は食堂若しくは喫茶店理髪店、美容院、クリーニング取次店、質屋、貸衣装屋、貸本屋他洋服店、畳屋、建具屋、自転車店、家庭電気器具店他パン屋、米屋、豆腐屋、菓子屋他学習塾、華道教室、囲碁教室他美術品又は工芸品を製作するためのアトリエ又は工房 |
第2種低層住居専用地域 | 日用品の販売を主たる目的とする店舗又は食堂若しくは喫茶店理髪店、美容院、クリーニング取次店、質屋、貸衣装屋、貸本屋他洋服店、畳屋、建具屋、自転車店、家庭電気器具店他(作業場の床面積の合計が50㎡以内)パン屋、米屋、豆腐屋、菓子屋他(作業場の床面積の合計が50㎡以内)学習塾、華道教室、囲碁教室他 |
【参考】
e-Gov|建築基準法施行令 第130条の3、第130条の5の2
店舗併用住宅の「お金」を解説
ここでは、店舗併用住宅の「お金」に関するよくある疑問について解説します。
住宅ローンも利用できる
住宅ローンの借り入れの際には、居住と店舗の面積比や用途、収益性などが審査されます。店舗併用住宅でも、居住部分が50%以上あれば住宅ローンの利用が可能です。通常のローンよりも住宅ローンの方が金利は低く、返済期間も長めに設定できるため有利です。
一方で店舗の割合が多い場合は事業用ローン(商業ローン)の適用となるケースもあるため、事前に金融機関に確認しましょう。
住宅ローン控除は「居住部分」が対象
住宅ローン控除とは、無理のない負担で居住ニーズに応じた住宅を確保することを促進するため、年末の住宅ローン残高の0.7%を所得税(一部、翌年の住民税)から最大13年間控除する制度です。
ただし店舗等併用住宅の場合は、「床面積の1/2以上が居住用であること」という条件があります。また省エネ性能の高い住宅の方が控除金額が大きくなる仕組みもあるため、ぜひ活用してみましょう。
【参考】国土交通省|住宅ローン減税
固定資産税の軽減措置も適用可能
固定資産税の軽減措置とは、新築住宅にかかる固定資産税を3年間・マンション等の場合は5年間、2分の1に減額する制度です(ただし認定長期優良住宅については固定資産税5年間・マンション等の場合は7年間)。
これにより良質な住宅の建設を促進し、居住水準の向上及び良質な住宅ストックの形成を図るという目的があります。
ただし固定資産税に関する評価額等は、地域ごとに差があるため注意しましょう。たとえば東京都の場合、店舗併用住宅は「居住部分の床面積50㎡以上280㎡以下」という要件があります。くわしい金額や要件については、お住まいの地域の窓口で確認すると安心です。
火災保険料は建物用途によって変動
一般的に、住宅専用建物よりも店舗併用住宅の方が保険料は高くなる傾向があります。これは、事業用途の設備や顧客の出入りによるリスクが増えることが理由です。
たとえば飲食店併設住宅などは火災リスクが高いため、保険料が上がる可能性があります。構造・用途に応じたプランを選択できるよう、比較検討することが大切です。
店舗併用住宅のメリット
ここでは、店舗併用住宅のメリットについて解説します。
家賃や通勤時間が掛からない
店舗併用住宅は自宅と店舗が一体となっているため、テナント料などの家賃負担が不要です。また通勤時間もゼロになるため、時間と交通費の節約にもつながります。
家事や育児と仕事の両立もしやすく、在宅ワークや自営業の方にとっては生活と仕事のバランスが取りやすい理想的な住環境といえます。
建築費を経費計上できる
店舗部分にかかる建築費や設備費用は、事業用資産として経費計上や減価償却が可能です。たとえば床・壁の内装費や看板、照明、空調設備などは、店舗用として法人・個人事業の損金に算入できます。
賃貸としても活用できる
店舗部分や居住スペースの一部を、賃貸物件として貸し出すことも可能です。そのため自分の事業をやめた後に店舗部分を他人に貸せば、家賃収入を得る収益物件として活用できます。
また住宅部分を一部賃貸にすれば「賃貸併用住宅」としても機能します。このように、ライフスタイルの変化に合わせて柔軟に資産活用できる点が大きな魅力です。
店舗併用住宅の注意点・デメリット
店舗併用住宅にはメリットが多くありますが、注意点やデメリットも存在します。事前にチェックしておくことで、失敗や後悔を防ぎましょう。
店舗と住宅の動線に配慮する
店舗と住宅の出入口や動線をきちんと分けないと生活空間への来客の出入りや視線が気になり、ストレスの原因になります。とくにお客様が頻繁に来店する業態では、プライバシーと導線をしっかり分離しておくことが重要です。
動線計画を建築段階から意識することで、家族と来客が干渉せず快適に過ごせる環境を整えましょう。
駐車・駐輪スペースを確保する
店舗の立地によっては、駐車場や駐輪場の確保が不可欠です。スペースが足りないと、近隣住民とのトラブルや集客の妨げになることもあります。
また自宅用の駐車場も必要なため、限られた敷地をどう活用するかを設計段階から慎重に検討しましょう。ただし自治体によっては、一定規模の店舗に駐車場設置義務があるため確認が必要です。
【参考】東京都|駐車施設の附置義務
騒音やプライバシー対策が必要
店舗での営業音や来客の声が生活空間に響くと、大きなストレスになります。そのため、防音対策や間取りの工夫が必要です。
また夜間営業中は外部からの視線や光害も気になるため、目隠しや遮光対策を講じることでプライバシーを守りましょう。
売却が難しい場合も
店舗併用住宅は一般的な住宅よりも買い手が限られるため、将来的な売却時に苦戦することがあります。とくに間取りが特殊な店舗の場合や立地が店舗向きでない場合には、需要が低く価格も下がりがちです。
そのため将来的に売却や賃貸活用を考えるなら、住宅としても使いやすい間取り設計を意識しておくことが重要です。
店舗併用住宅の間取り実例
ここでは、店舗併用住宅の間取り実例をご紹介します。具体的なイメージを持っておくことで、店舗併用住宅計画に活かしてみてください。
クリニック・病院|パナソニックホームズ
こちらは、自宅とクリニックの店舗併用住宅です。屋根や窓、外壁のカラーで変化をもたせた外観が特徴で、クリニックとの導線がきちんと分けられています。
建物は軽量鉄骨造2階建で、敷地面積413.64㎡・延床面積285.31㎡となっています。内部は木柄を基調としたインテリアで、ゆったりとした気持ちで診察を受けられる仕様です。
サロン・美容室|トヨタホーム
美容室を経営している場合、美容室併用住宅を建築するケースが見られます。こちらは平屋でありながら、広々とした店舗併用住宅が実現している事例です。
玄関から入ってすぐの空間を美容室にすることで、居住スペースと明確に区分されています。玄関近くにトイレを配置しておけば、お客様も気軽に利用しやすくなるのがメリットです。
リビングには吹き抜けを設けることで、開放的な空間がかないました。小屋裏部分を活かすことで、平屋でも上部の空間を有効活用できます。
カフェ・飲食店|へーベルハウス
こちらは1階が洋菓子店とカフェ、2階が住宅の間取り事例です。
鉄骨造のため、柱を最小限に抑えた大空間が実現しています。さらに菓子作りに大切な厨房の温度管理を守る断熱性や、早朝からの厨房作業でもご近所に迷惑をかけない遮音性能の高さといった点も特徴です。
2階に玄関を配置することで、住居空間と店舗を完全に分離できるため安心です。また茶室で茶道教室を開くことも想定されており、細部にまでこだわりと配慮の行き届いた設計となっています。
事務所|ダイワハウス
事務所併用住宅は汎用性が高く、将来的に売却しやすいのもメリットです。こちらの事例は1階に事務所を配置した設計で、動線が被らないように配慮されています。
室内の天井高は通常よりも高い272㎜となっているため、実際の広さよりも開放的に感じられます。
まとめ
店舗併用住宅は、住まいと仕事場を一体化できる便利な住居形態で、家賃や通勤コストの削減、経費計上や収益化など多くのメリットがあります。一方で動線や騒音、将来の売却性など注意点もあるため、事前の計画が非常に重要です。メリットとデメリットを正しく理解し、ライフスタイルや事業内容に合った設計・運用を実現しましょう。