耐火建築物とは|準耐火との違いや内装制限の基準

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「耐火建築物」についてピックアップします。都市部では法律により耐火建築物が義務付けられるケースもあり、住宅やビル選びの重要なポイントになります。本記事では耐火建築物の定義や法的要件、準耐火建築物との違い、メリット・デメリットまでをわかりやすく解説します。建築計画や不動産選びの参考に、ぜひご活用ください。

耐火建築物とは|建築基準法の要件をチェック

耐火建築物とは、火災時に一定時間構造体が崩壊しないよう「建築基準法 第二条 九の二」に基づいて定められた性能を持つ建物のことです。主に鉄筋コンクリート造などの不燃材料で構成され、火災の被害拡大を防ぐ役割があります。

建物の用途や規模、立地によって耐火性能の等級や構造要件が異なり、基準をクリアする必要があります。

【参考】e-GOV|建築基準法 第二条 九の二

耐火建築物にしなければならない地域

出典:国土交通省,防火地域等における建築物の規制,https://www.fdma.go.jp/singi_kento/kento/items/kento187_32_shiryo1-3.pdf,参照日2025.6.12

用途地域によって、耐火建築物にすることが義務付けられている場合があります。建築基準法施行令に従い、建築前に確認しておきましょう。

①防火地域

防火地域では、下表の通り耐火建築物・準耐火建築物にすることが定められています。

階数/延べ床面積100㎡以下100㎡超
3階建て以上耐火建築物耐火建築物
2階建て以下準耐火建築物耐火建築物

※ただし以下は除く。

  • 1.延べ面積が50m以内の平家建ての附属建築物で、外壁および軒裏が防火構造のもの
  • 2.卸売市場の上家または機械製作工場で主要構造部が不燃材料で造られたもの、その他これらに類する構造でこれらと同等以上に火災の発生のおそれの少ない用途に供するもの
  • 3.高さ2mを超える門または塀で、不燃材料で造り、または覆われたもの
  • 4.高さ2m以下の門または塀

【参考】e-GOV|建築基準法施行令 第百三十六条の二 

②準防火地域

準防火地域の場合、防火地域よりも基準が緩やかになります。

階数/延べ床面積500㎡以下500㎡超1,500㎡以下1,500㎡超
4階建て以上耐火建築物耐火建築物耐火建築物
3階建て一定の防火措置準耐火建築物耐火建築物
2階建て以下その他準耐火建築物耐火建築物

【参考】e-GOV|建築基準法施行令 第百三十六条の二 

耐火建築物の構造の種類

ここでは、耐火建築物の構造の種類について解説します。

RC(鉄筋コンクリート)造

RC造(鉄筋コンクリート造)は鉄筋を骨組みにしてコンクリートで被覆した構造で、高い耐火性と耐震性が特徴です。

主要構造部が不燃材料で構成されており、建築基準法施行令第107条〜第129条の2に定められている耐火構造に適合しています。とくに1時間以上の耐火性能を持つ仕様が多く、耐火建築物として多くの建築で採用されています。

レンガ造

レンガ造は不燃材料である焼成レンガをモルタルで積み上げて構成されるため、一定の耐火性能を有します。ただし現代では耐震性の点から構造体としての使用は限定的で、主に意匠や部分的な利用が中心です。

モルタル造

モルタル造は、木造や鉄骨造の下地にモルタルを塗布して耐火性を高める構造です。モルタル自体は不燃材ですが、主要構造部が不燃であることや、厚み・被覆材の仕様が法定基準を満たしていない限り、単体では「耐火建築物」として認定されません。

耐火建築物とするには、追加の耐火被覆や認定構造の採用が必要です。

S造(鉄骨造)

S造(鉄骨造)は鉄骨を主要構造部に用いた建築構造で、強度と施工性に優れており、中高層ビルや大型施設などに多く採用されています。

ただし鉄自体は高温に弱く変形しやすいため、そのままでは耐火建築物として認定されません。耐火被覆材(吹付けロックウール、耐火被覆板など)を施工し、耐火構造の基準を満たす必要があります。

木造

出典:国土交通省,ここまでできる『木造建築のすすめ』,https://www.kiwoikasu.or.jp/data/89ce4ff063cb4051af11aed818c36343.pdf,参照日2025.6.12

木造は燃えやすいイメージがありますが、2000年改正の「建築基準法第2条第七号」「施行令第107条」により、木造でも耐火建築物とすることが可能となりました。

たとえばCLT(直交集成板)を厚く積層し、表面を石膏ボードなどで被覆するといった仕様が確立されています。これにより、木造建築の幅広い活用が可能となっています。

【参考】国土交通省|ここまでできる『木造建築のすすめ』

耐火建築物との違い|建築物の種類

ここでは耐火建築物との違いについて、「建築物の種類」に着目して分かりやすく解説します。

耐火建築物

耐火建築物とは「建築基準法 第二条 九の二」に定められた建築物で、柱・梁・壁・床など主要構造部すべてが耐火構造でつくられ、国土交通大臣の認定または基準に適合しているものです。火災に対し、最も厳しい基準が適用される建物となっています。

【参考】e-GOV|建築基準法 第二条 九の二

準耐火建築物

準耐火建築物は、「建築基準法 第二条 九の三」に定められており、主要構造部に準耐火構造が施された建築物です。

耐火建築物よりもやや緩い基準で設計され、準防火地域や特定用途の建物にも用いられます。火災発生時の延焼防止や、倒壊防止を目的としています。

【参考】e-GOV|建築基準法 第二条 九の三

省令準耐火建築物

省令準耐火建築物は、住宅金融支援機構が定める独自の耐火性能基準に基づいた木造住宅で、建築基準法とは異なる分類です。

主に保険料の割引対象として扱われる構造で、壁・天井の石膏ボードや防火被覆を用いるなど、火の通り道を遮断する設計がなされています。

【参考】住宅金融支援機構|省令準耐火構造の住宅とは

耐火建築物の「見分け方」とは

耐火建築物かどうかは外観だけで判断するのは難しく、建築確認済証や設計図書、登記簿などの書類で確認するのが確実です。構造種別に「耐火構造」や「耐火建築物」と明記されているかをチェックしましょう。

また火災保険の見積もりや契約時に確認が必要となる情報でもあるため、不明な場合は建築士や保険会社に問い合わせるのが確実です。

耐火建築物のメリット

ここでは、耐火建築物のメリットについて解説します。

火災に強い

耐火建築物は主要構造部すべてに耐火構造が用いられており、火災時にも一定時間構造を維持できる性能を備えています。これにより延焼のリスクを抑えられ、建物内の安全な避難や消防活動の時間を確保できるのがメリットです。

都市部の便利な立地が多い

耐火建築物は、防火地域や準防火地域といった地域で建てられるケースが多く、自然と都市中心部や駅近など利便性の高いエリアに立地する傾向があります。

こういったエリアは地価も高いため、建物の資産価値も相対的に高くなるのが一般的です。そのため、利便性と安全性を両立しやすい点がメリットです。

火災保険料が安い場合がある

耐火建築物は火災時の被害が抑えられる構造であるため、保険会社によっては火災保険料の割引対象になる場合があります。具体的には構造区分で「M構造(耐火構造)」と分類されることで、非耐火構造の建物に比べて保険料が安くなる可能性があります。

ただし実際の金額は保険会社や補償内容によって異なるため、事前の確認が必要です。

耐火建築物のデメリット・注意点

ここでは、耐火建築物のデメリットや注意点について解説します。

建設費用が高い

耐火建築物では柱や梁、壁、床など主要構造部をすべて耐火構造とする必要があるため、使用する資材や施工技術が高コストになりがちです。

また設計や審査にも時間と専門知識が必要となるため、非耐火建築物と比べて総工費が割高になる傾向があります。とくに鉄筋コンクリート造や被覆を伴う鉄骨造などでは、初期費用が大きくなる点に注意が必要です。

内装制限を受ける

耐火建築物は、建築基準法により内装材にも制限が課せられます。とくに防火地域・準防火地域では、天井や壁に使える材料は「不燃」「準不燃」「難燃」などの性能区分に基づいて選定しなければならず、デザインの自由度が狭まる場合があります。

また火気使用室や避難経路における内装制限はとくに厳しく、計画段階での慎重な素材選びが大切です。

リフォームの自由度が低い

耐火建築物では主要構造部が耐火構造として設計されているため、改修や間取り変更の際にも耐火性能の維持が必要です。たとえば壁を抜く、開口部を広げるといった工事には構造計算や新たな認定材料の使用が求められ、手間やコストが増えます。

こういった事情から自由なリフォームが難しく、用途変更や居住スタイルに合わせた柔軟な対応がしにくいのが難点です。

まとめ

耐火建築物は火災時の安全性に優れており、都市部の利便性の高い地域に建てられることが多い建物です。保険料が安くなる可能性もありますが、建設コストや内装制限、リフォームの制約といったデメリットもあります。

そのため建築基準法に基づく定義や構造要件を理解し、用途や立地、将来の運用まで見据えて選ぶことが重要です。安全性と利便性のバランスを考慮し、適切に設計しましょう。