2025法改正|許容応力度計算とは?壁量計算との違いやおすすめソフト

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Category: 住宅業界動向

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「許容応力度計算」についてピックアップします。近年、地震や台風など自然災害への備えとして、木造住宅でもより高い構造安全性が求められるようになっています。とくに2025年の建築基準法改正で「4号特例」の縮小が進む中、従来の壁量計算だけでなく「許容応力度計算」に注目が集まっています。本記事では、許容応力度計算の基本的な仕組みや手順、メリット・注意点について、工務店や設計実務者の方にわかりやすく解説します。

木造住宅の構造確認方法の種類

ここではまず、木造住宅における構造確認方法の種類について解説します。

①仕様規定

「仕様規定」とは、木造住宅の構造安全性を確認するための最も基本的かつ簡便な方法です。建築基準法施行令第3章第3節に基づき、壁の量・配置、筋かいの大きさや取り付け位置、金物の種類などが事細かにルール化されており、これに従って設計すれば構造的に安全であるとみなされます。

2階建てまでの一般的な戸建住宅で多く採用されており、構造計算を行わずに済むため設計コストを抑えられるのがメリットです。ただし複雑な間取りや3階建て住宅には対応しづらく、耐震等級などの性能評価を求める場合には他の方法が必要になります。

【参考】e-GOV|建築基準法施行令(昭和二十五年政令第三百三十八号)

②品確法|「性能表示計算」による確認

出典:国土交通省,住宅の品質確保の促進等に関する法律,https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk4_000016.html,参照日2025.5.1

「住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)」に基づき、住宅性能表示制度を利用する方法もあります。こちらでは、耐震等級や耐風等級といった構造に関わる項目を数値化して確認します。

とくに耐震等級2以上を取得するには、性能表示計算が求められます。設計図書の評価や施工段階・完成段階の検査に基づいた構造安全性の確認方法で、通常の仕様規定よりも精密な検討が必要です。

住宅金融支援機構のフラット35や長期優良住宅認定を受ける際にも活用でき、信頼性の高いアピール材料となります。設計自由度が高い住宅でも、安全性を客観的に示せる点が特徴です。

【参考】国土交通省|住宅の品質確保の促進等に関する法律

③許容応力度計算

許容応力度計算は、荷重や地震力といった建物に加わる力に対して、構造部材が耐えうるかを数値的に検証する方法です。木造住宅では最も精密な構造確認手法とされており、梁・柱・接合部の応力を部材ごとに計算します。

木造3階建てや狭小住宅、偏心プランを取得する場合には必須とされ、仕様規定では判断しづらい複雑な構造にも対応可能です。ただし計算には専門知識が必要なため、構造事務所への外注や専用ソフトの導入が一般的です。

「許容応力度計算」とは

ここでは「許容応力度計算」について詳しく解説します。

許容応力度計算と壁量計算の違い

壁量計算は、建築基準法に基づいた「仕様規定」の一部で、建物の地震・風圧に対する耐力壁の必要量を求める簡易的な方法です。一方で許容応力度計算は、建物にかかる力と、それに耐える構造部材の強さを部材ごとに数値で検証する詳細な方法です。

壁量計算では構造全体のバランスや変形までは検討しませんが、許容応力度計算では梁・柱・接合部すべてを計算対象とするため、より精密で信頼性の高い構造確認が可能になります。

2025|4号特例縮小で範囲が拡大

出典:国土交通省,2階建ての木造一戸建て住宅(軸組構法)等の確認申請・審査マニュアル,https://www.mlit.go.jp/common/001627106.pdf,参照日2025.5.1

2025年に施行される建築基準法改正により、「4号特例」の範囲が縮小されました。これにより、一般的な木造2階建て等の「新2号建築物」でも構造関係規定等の図書の提出が必要になりました。

出典:国土交通省,2階建ての木造一戸建て住宅(軸組構法)等の確認申請・審査マニュアル,https://www.mlit.go.jp/common/001627106.pdf,参照日2025.5.1

さらに、以前までは「2階建て以下・延べ面積500㎡以下」の建築物なら仕様規定により構造安全性を確認できました。しかし改正法施行後は「延べ面積が300㎡を超える場合」には、少なくとも簡易な構造計算(許容応力度計算(ルート1))が必要です。

構造計算の基準が引き下げられたことで設計への影響が大きくなり、工務店や設計事務所にも対応力が求められます。今後は、実務での構造確認方法の見直しがカギになります。

許容応力度計算の手順

ここでは、許容応力度計算の具体的な手順を解説します。

鉛直・水平方向の力を計算

最初に、建物にかかる鉛直方向(屋根・床・積載・自重)と水平方向(地震・風)の荷重を計算します。地震力や風圧は、地域区分や建物形状、用途に応じた法令・告示の式に基づいて算定します。

さらに積雪地域では、雪の重さも加味する必要があります。これらの荷重は建物全体にどのような力がかかるかを把握する基礎となり、以降の構造検討の出発点となります。

各部材にかかる負荷を計算

次に、求めた荷重が柱・梁・床・壁など各構造部材にどのように分配されるかを計算します。具体的には梁の曲げモーメントや柱の軸力、壁や接合部にかかる剪断力などを求めます。

こういった「応力」は構造解析によって数値化され、建物のどこにどれだけの負荷が集中するかを把握するための重要なデータとなります。部材の配置やスパン、支持条件なども考慮するのがポイントです。

許容力を比較する

最後に部材ごとに「実際にかかる力(応力度)」と「その部材が耐えられる力(許容応力度)」を比較し、安全性を確認します。具体的には応力度が許容値を超えていないかをチェックし、「応力度 ≦ 許容応力度」の関係が成立するかを判定します。

結果が不適合の場合は、設計の見直しが必要です。この検討により、適切な梁せいや柱寸法、金物の種類などが確定します。

許容応力度計算のメリット

ここでは、許容応力度計算をするメリットを紹介します。

建物の安全性が高まる

許容応力度計算では、柱や梁、接合部などすべての構造部材に対して実際にかかる力と、それに耐えられる強度を詳細に検討します。そのため構造全体のバランスや地震時の変形にも配慮した設計が可能となり、単なる壁量計算では把握しきれない弱点を発見・補強できます。

とくに複雑な間取りや狭小地、変形敷地においても、確かな安全性を確保できる点が大きなメリットです。

「耐震等級3」を取得できる

住宅性能表示制度における「耐震等級3(最高等級)」は、高い耐震性能を備えた住宅に与えられる評価です。この等級を取得するには、許容応力度計算に基づく構造の確認が必要です。

等級3の取得により、地震保険料の割引や住宅ローン優遇、売却時の資産価値向上といった経済的なメリットもあり、信頼性や満足度の向上にもつながります。

許容応力度計算のデメリット・注意点

許容応力度計算の必要性が高まっていますが、実施する際には注意点もあります。

計算の手間や時間が掛かる

許容応力度計算は、部材ごとの応力解析や荷重計算など、非常に多くの工程と専門的な知識を要します。仕様規定や壁量計算と比べて作業量が多く、慣れていない場合は設計期間が長くなるのが課題です。

また建物の形状が複雑になるほど計算も煩雑になり、検討の手戻りが発生しやすくなります。社内に構造担当がいない場合は外注に頼ることになり、工程管理も重要になります。

費用が掛かる

許容応力度計算は、専門性の高さから構造設計事務所への外注や専用ソフトの導入が必要になるケースが多く、一般的な設計よりも費用が高くなる傾向があります。建物の規模や複雑さによっては十万円単位のコストがかかることもあり、お施主様への説明や見積段階での配慮が求められます。

コストを抑えたい場合の折り合いをどうつけるかも、実務では重要なポイントです。

許容応力度計算におすすめのサービス・ソフト

2025年の4号特例縮小によって、許容応力度計算が必要になるケースも増えています。適切なサービスやソフトを導入することで、設計時の負担を軽減しましょう。

パナソニック|木造軸組工法向け邸別構造計算サービス

出典:パナソニック,パナソニックが「木造軸組工法向け邸別構造計算」の提供を開始,https://news.panasonic.com/jp/press/jn250404-4,参照日2025.5.1

パナソニックは、2025年6月3日より「木造軸組工法向け邸別構造計算」サービスの提供を開始します。「Panasonic リフォームClub」と「住まいパートナーズ」加盟店の新築物件を対象に構造計算書を活用することで、業務負荷軽減につなげるのが目的です。

パナソニックの耐震住宅工法「テクノストラクチャー」において、約30年間、約78,000棟に対して許容応力度計算による構造計算を実施してきたノウハウを活用しています。すでに加盟店に提供している省エネ計算サービスも併せて活用することで、構造計算と省エネ計算をまとめてアウトソーシングすることが可能です。具体的な価格は、下記の通りです。

省エネ計算60,000円(税別)
許容応力度計算による構造計算(1・2階建て、200 m2以下の場合)160,000円(税別)
省エネ計算+構造計算180,000円(税別)

KIZUKURI

出典:コンピュータシステム研究所,KIZUKURI,https://www.cstnet.co.jp/archi/products/kizukuri/index.html,参照日2025.5.1

「KIZUKURI」は、3階建てまでの軸組工法木造建築物及び混構造建築物の木造部分の構造計算を行うソフトです。日本住宅・木材技術センター発行「木造軸組工法住宅の許容応力度設計(2001年3版・2008年版・2017年版)」に準拠した構造計算ができるのが特徴です。

また構造計算を行うだけでなく、確認申請時に必要な構造計算書や耐震等級3といった申請に必要な検討結果の出力にも対応しています。具体的な対応種類は、下記の通りです。

  • 建築確認申請
  • 住宅性能表示
  • 長期優良住宅
  • フラット35
  • 住宅性能証明
  • その他補助事業等で必要となる耐震等級1・2・3の構造計算書

まとめ

2025年の建築基準法改正により、構造計算が必要になる建築物の範囲が拡大されました。許容応力度計算を行うことで、安全性が担保しやすくなるのがメリットです。しかし業務の手間を考慮すると、専用ソフトやサービスを導入して効率化を図るのがおすすめです。