「歩掛」をわかりやすく解説|2025国交省基準や住宅での課題

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「歩掛(ぶがかり)」についてピックアップします。歩掛とは一定の作業を完了するために必要な労働量やコストの目安であり、正確な労務費の積算やスケジュール管理、赤字防止、顧客からの信頼向上といったメリットがあります。本記事では歩掛の計算方法や、2025年版国土交通省標準歩掛等について分かりやすく解説します。
歩掛(ぶがかり)とは|わかりやすく解説

歩掛(ぶがかり)とは、建設工事や土木工事において、ある作業を1単位仕上げるのに必要な作業時間や材料、機械の使用量などを定めた基準のことです。工事費用の見積もりや積算、作業工程の計画を立てる際に重要な指標となります。
公共工事では国や自治体が標準歩掛を定めており、民間工事でもこれを参考にするケースが見られます。歩掛の活用は適切なコスト管理と効率的な施工につながるため、重要です。
歩掛を利用するメリット

ここでは、建築・土木工事で歩掛を利用するメリットを解説します。
労務費を正確に積算できる
歩掛を利用することで作業に必要な人数や作業時間が明確になり、労務費を正確に積算できます。これにより、見積もり時のブレを防ぎ、実際の工事費用との差異を小さくすることが可能です。
とくに公共工事では標準歩掛に基づいた積算が求められるため、適切な単価設定やコスト算出に欠かせない要素となっています。労務費の精度が高まることで、社内外の信頼性も向上します。
スケジュール管理につながる
歩掛では作業ごとに必要な時間や手間を数値化しているため、工事全体のスケジュール作成にも役立ちます。各作業にかかる時間を積み上げることで、無理のない工程表を作成でき、作業遅延や手戻りを防ぐことが可能です。
また事前に必要な人員や機材を把握できることで段取り良く作業を進められ、結果的に工期短縮や効率的な施工管理につながります。
赤字を防げる
見積もり時に甘い計算をしてしまうと、実際の現場で人手や材料が不足し、追加コストが発生することもあります。しかし歩掛を活用して適切な労務費・資材費を算出することで総コストを事前に把握でき、赤字リスクを大幅に低減できます。
このように歩掛に基づいた積算を行えば予期せぬコスト増を防げるため、健全な収支管理を実現しやすくなるのがメリットです。
顧客からの信頼が高まる
正確な歩掛を基に算出した見積もりや工程計画は、顧客に対して説得力のある説明材料になります。「なぜこの工期・この金額なのか」を明確に説明できるため、顧客側も納得しやすく、信頼関係を築きやすくなります。
無理のない見積もりや工程に基づいた工事を進めることで追加費用や工期遅延といったトラブルも防げて、結果的にリピーター獲得や評判アップにもつながるのが特徴です。
歩掛の計算方法

ここでは、歩掛の計算方法について紹介します。
①設定基準の確認
歩掛を計算する際は、まず設定基準を確認することが重要です。基準には作業員の年齢層、保有資格、経験年数などが影響します。たとえば熟練工と未経験者では作業速度や精度が異なるため、歩掛にも違いが生じます。
公共工事の場合、国が定めた標準的な技能者像に基づく基準を用いるのが一般的です。自社独自で歩掛を設定する場合も、作業員のスキルや現場条件を適切に反映させる必要があります。
②人工(にんく)の計算
人工(にんく)とは、1人の作業員が1日に作業する仕事量を指します。歩掛では「作業1単位あたりに必要な人工数」を算出するのが特徴です。
たとえば1m³のコンクリート打設に0.25人工かかる場合、4m³なら1人工(=1人・1日分)必要になります。人工の正確な把握は労務費やスケジュールの精度に直結し、実際の現場状況に応じた補正も考慮することが重要です。
③労務費の計算
人工数が算出できたら、次に労務単価を掛け合わせて労務費を計算します。労務単価は地域や職種、年度によって異なり、公共工事では国や自治体が公表している「設計労務単価」を使用するのが一般的です。
たとえば「1人工あたりの単価が20,000円で、必要人工が5.5」なら、労務費は110,000円となります。労務単価は毎年改定されるため、最新の数値を用いることが重要です。
【参考】国土交通省|令和7年3月から適用する公共工事設計労務単価について
2025国土交通省の標準歩掛
2025年(令和7年度)の国土交通省「土木工事標準歩掛」は、現場の実態や社会的要請を反映して以下のような改定が行われました。
【参考】国土交通省|令和7年度 国土交通省土木工事・業務の積算基準等の改定
1. 現場環境の改善費用の充実
これまで、国土交通省が発注する直轄工事の積算では、ミストファンなどの設備費用は「共通仮設費(現場環境改善費)」に、経口保水液や空調服など労務管理に関わる費用は「現場管理費」(真夏日の日数に応じて補正)に含めて計上していました。
そして工期は猛暑日を考慮して設定し、実際に猛暑日が想定より多かった場合には適切に延長・費用を増額して対応してきました。
しかし令和7年度からは制度が見直され、「現場環境改善費(率計上)」から熱中症対策や防寒対策にかかる費用を切り離し、それぞれの対策費を別途設計変更で対応するルールに変更されました。なお、設計変更で認められる金額は「現場環境改善費」の50%を上限としています。
2. 完全週休2日(土日)の実現等の多様な働き方への支援
建設業においても週休2日制が定着しつつあることを踏まえて、他産業に遜色ない働き方の実現に向けた取り組みが進められています。
令和7年度からは、地域の実情を踏まえた上で「完全週休2日制(土日休み)」の実現をはじめとする、多様な働き方の推進に向けた支援策を実施する予定です。
3. 移動時間等を踏まえた歩掛改定
従来より「KY活動(危険予知活動)や準備体操、現場内での移動時間、後片付け」などは就業時間内に含まれており、標準歩掛にも適切に反映されています。
さらに令和4年度からは、路上工事など常設の作業帯を確保できない現場での「資材置き場から現場までの移動時間」も考慮できるよう全面見直しが実施されています。そして令和6年度には、路上工事に加えて仮設工事においても標準歩掛に適切に反映されるようになっています。
歩掛の注意点・デメリット
ここでは、歩掛を利用する際の注意点やデメリットを紹介します。
現場の状況を考慮する必要がある
歩掛は標準的な条件を基に設定されていますが、実際の現場では地形、天候、交通状況、作業環境などが異なるため、個別の要因を考慮して調整する必要があります。たとえば都市部と地方では資材の搬入時間や作業効率が異なる場合があります。
標準歩掛をそのまま適用すると実際の作業時間やコストに乖離が生じる可能性があるため、現場の実情に応じた補正が重要です。
予備費を見積もっておく
工事中には、予期せぬトラブルや追加作業が発生することがあります。歩掛を基にした積算では、こうした不確定要素をカバーするために予備費を計上しておくことが重要です。
予備費を適切に見積もることで予算オーバーや工期遅延といったリスクを軽減し、安定した工事運営が可能となります。
最新データを参照する
労務費や材料費、機械費などの単価は市場の変動や地域特性によって変化します。そのため積算時には、国土交通省や自治体が公表する最新の単価データを参照することが必要です。
古いデータを使用すると実際のコストと乖離が生じ、予算の過不足や利益率の低下につながる可能性があります。
住宅分野では歩掛が存在しない
一般的な住宅建築においては、公共工事のような標準歩掛が存在しない場合が多く、各工務店や施工会社が独自に経験や実績に基づいて歩掛を設定しています。そのため、積算の精度や一貫性にばらつきが生じる可能性があるのが課題です。
住宅分野での積算では過去の実績データや現場の特性を踏まえた柔軟な対応が求められており、国土交通省では2025年に実態調査を実施する予定です。
まとめ
歩掛は建築・土木工事における作業量と労務費を正確に積算し、スケジュール管理や赤字防止、信頼向上に役立つ重要な指標です。ただし現場状況を考慮し、予備費を見積もり、最新データを参照することが欠かせません。現時点では住宅分野では標準歩掛が存在しないため、経験に基づく柔軟な対応が求められます。歩掛について正しく理解して活用することで、工事の品質と経営の安定につなげましょう。