構造計算書が「必要な建物」とは|見方や作り方を解説

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「構造計算書」についてピックアップします。2025年の4号特例縮小によって、構造関係規定等の設計図書の添付が必要になる範囲が広がりました。そこで本記事では、構造計算書の概要や見方について詳しく解説します。
構造計算書とは
構造計算書とは、建物が地震や風、雪などの外力に耐え、安全に使い続けられる構造になっていることを確認するための計算記録書です。
設計段階で建物に加わる力や構造部材(柱・梁・基礎など)の強度を数値的に検証し、建築基準法に基づいた安全性を示します。主に構造設計者が作成し、確認申請や構造審査の際に提出される重要な資料です。
4号特例縮小|住宅で「構造計算書」が必要な場合も
従来の建築基準法の場合、木造2階建て以下の住宅(4号建築物)には建築確認の際に構造耐力関係規定等の審査を省略する「4号特例」が適用されていました。しかし近年の大規模地震や耐震偽装問題を受け、2025年から4号特例が縮小されています。
これにより、住宅でも構造計算書の提出が求められるケースが増加しています。より厳格な安全確認が行われるのはメリットですが、計算や書類作成の手間が増えるため注意が必要です。
構造計算書が「必要」な建物
2025年4月の法改正以降、構造関係規定等の設計図書の添付が必要となる建物は下記の通りです。
- 2階建て以上の建築物
- 延べ面積が200㎡を超える建築物
- 高さが16mを超える建築物
- 用途部分の床面積の合計が100㎡を超える特殊建築物(学校や病院、ホテル、共同住宅など)
また従来まで「高さ13m以下、軒高9m以下」または「規模500㎡以下」の場合は仕様規定に準拠していれば構造計算は不要でした。しかし法改正後は「高さ16mを超える」または「300㎡を超える」場合に、少なくとも簡易な構造計算(許容応力度計算(ルート1))が必要となります。
このように4号特例の縮小により構造計算書の提出が必要な範囲が広がったため、設計時には事前の確認が重要です。
構造計算書の内容|サンプル見本で解説
ここでは構造計算書の内容について、国土交通省の「構造計算概要書」より一般的な見方を解説します。
【参考】国土交通省|構造計算概要書
1.建築物の概要(一般事項)
建物の名称、用途、構造種別、階数、延べ面積など、建物の基本情報を記載します。また構造計算に用いる設計基準や適用法令、地盤調査結果等もここで示されます。
2.荷重・外力等
建物に作用する荷重(固定荷重、積載荷重、積雪、地震力、風圧力など)を明示します。これらの数値は以後の応力計算や耐力計算の前提条件となるため、重要な初期設定です。
3.応力計算
荷重により各構造部材に発生する応力(引張、圧縮、曲げ、せん断など)を計算します。部材がどれだけ力を受けるかを数値化し、許容範囲内であることを確認するための基礎データです。
4.断面計算
応力に対して、柱や梁などの部材断面が安全かどうかを確認します。断面サイズや補強の有無に応じて、必要な強度・剛性が確保されているかを検証する重要な工程です。
5.基礎ぐい等の検討
建物の荷重を地盤に伝える基礎構造について、安全性や沈下量を検討します。地盤調査結果を踏まえて、べた基礎・布基礎・杭基礎などの形式選定と構造計算が行われます。
6.使用上の支障に関する検討
建物が変形しすぎて、ひび割れや傾きなどの使用上の問題が生じないよう検討します。床のたわみやクリープなど、日常的な使用における快適性と耐久性の確保が目的です。
7.層間変形角、剛性率、偏心率等
地震時の建物の変形量(層間変形角)、各階の剛性バランス(剛性率)、構造の左右対称性(偏心率)をチェックし、過度な変形やねじれのリスクを回避する設計がなされているかを確認します。
8.保有水平耐力
地震時に建物が持ちこたえる力(耐震性能)を定量的に評価します。設計地震力と比較し、十分な余力があることを確認します。構造計算の中でも特に重要な項目です。
9.屋根ふき材等の検討
屋根材の落下や飛散による危険を防ぐため、屋根ふき材や外装材が十分な強度や固定力を持っているかを検討します。風圧力や地震動に対して脱落しない設計が求められます。
構造計算書の作り方
構造計算書の作り方としては、自社で作る方法と外注する方法があります。
自社で作る
構造計算書を自社で作成する場合には設計意図との連携が取りやすく、変更対応やコスト調整もスムーズです。小規模な事務所や工務店では対応が難しいケースもありますが、社内でノウハウを蓄積できるという大きなメリットがあります。
一方で専門知識や経験が求められるため、担当者の育成や体制構築に時間と費用が掛かるのがデメリットです。
他社に外注する
外注とは、構造設計事務所などの外部専門家に計算業務を依頼する方法です。複雑な構造や審査対応が必要な案件にも安心して対応でき、効率的に高品質な構造計算書が得られます。
ただし設計変更時の対応に時間がかかる場合や、外注費用が発生する点がデメリットです。そのため、設計業務の分業化や人的リソースの不足を補いたい場合におすすめです。
構造計算書でよくある疑問
ここでは、構造計算書に関するよくある疑問についてまとめて解説します。
構造計算書はいつ・誰が作る?
構造計算書は、設計段階で構造設計者(構造設計事務所または設計者の一員)が作成します。一般的に建築確認申請に必要な図面と並行して作成され、確認申請の提出時に添付されます。
とくに2025年の4号特例縮小により、構造計算が求められる建物の範囲が広がっているため注意が必要です。
構造計算書はどこにある?ない場合は復元できる?
構造計算書は設計事務所や建築主、施工会社が保管していることが多いようです。確認済証がある場合は、建築確認申請書と一緒に保管されている可能性もあります。
紛失している場合は、設計図や現地調査、使用材料の情報を基に復元が可能なケースもありますが、正確性やコストには注意が必要です。耐震改修やリフォームの際に必要になることがあるので、大切に保管しておきましょう。
構造計算書にかかる費用の目安
構造計算書の作成費用は、建物の規模や構造の複雑さによって大きく異なります。木造住宅であれば30~100万円で、鉄骨造やRC造など中・大規模建築物では数十万~100万円以上になることもあります。
そして外注する場合は、構造設計の報酬基準に準じた費用が必要です。ただし設計料の一部として含まれている場合もあるため、事前に契約内容を確認しておくことが大切です。
まとめ
2025年の4号特例縮小により、従来は構造計算が必要なかった木造建築物でも構造計算書等の提出が求められるケースが増えています。規模や条件によって適切な手続きを踏まえることで、より安全性の高い建築物になることが期待されます。