2025区分所有法改正案|マンション管理・再生の円滑化

目次
トレンドワード:区分所有法改正
「区分所有法改正」についてピックアップします。マンション等の集合住宅の老朽化に対応するために、一連の法改正が実施されます。本記事では改正の概要や課題について、詳しく解説しているためぜひ参考にしてみてください。
2025「マンションの管理・再生の円滑化のための改正法案」
2025年3月、「老朽化マンション等の管理及び再生の円滑化等を図るための建物の区分所有等に関する法律等の一部を改正する法律案」が閣議決定されました。これはマンションの管理・再生の円滑化が主な目的で、今後は新築から再生までのライフサイクル全体を見通した変化が期待されます。
法改正案の概要①マンション管理の円滑化等
「マンション管理の円滑化等」として、下記の取り組みが実施されます。
- 新築時から適切な管理や修繕が行われるよう、分譲事業者が管理計画を作成し、管理組合に引き継ぐ仕組みを導入。
- マンション管理業者が管理組合の管理者を兼ね工事等受発注者となる場合、利益相反の懸念があるため、自己取引等についての区分所有者への事前説明を義務化。
- 修繕等の決議は、集会出席者の多数決によることを可能に。
- 管理不全の専有部分等を裁判所が選任する管理人に管理させる制度を創設。
法改正案の概要②マンション再生の円滑化等
「マンション再生の円滑化等」についての取り組みは、下記の通りです。
- 建物・敷地の一括売却、一棟リノベーション、建物の取壊し等を、建替えと同様に、多数決決議によることを可能とするとともに、これらの決議に対応した事業手続等を整備。
- 隣接地や底地の所有権等について、建替え等の後のマンションの区分所有権に変換することを可能に。
- 耐震性不足等で建替え等をする場合における特定行政庁の許可による高さ制限の特例を創設。
法改正案の概要③地方公共団体の取組の充実
「地方公共団体の取組の充実」については、下記の取組が実施されます。
- 外壁剝落等の危険な状態にあるマンションに対する報告徴収、助言指導・勧告、あっせん等を措置。
- 区分所有者の意向把握、合意形成の支援等の取組を行う民間団体の登録制度を創設。
目標・効果(KPI)
区分所有等に関する法改正によって、施行後5年間で下記の目標到達が掲げられています。
- ①管理計画認定の取得割合:約20%
- ②マンションの再生等の件数:1000件
区分所有法等改正案はいつ施行?
「老朽化マンション等の管理及び再生の円滑化等を図るための建物の区分所有等に関する法律等の一部を改正する法律案」は、2025年3月に閣議決定されました。具体的な施行時期は未定ですが、政府では今国会で成立を目指す方針です。
区分所有法とは|「マンション標準管理規約」との違い
ここでは一連の法改正の中で「区分所有法」に着目し、解説します。
そもそも区分所有法とはマンションなどの区分所有建物に関する法律で、所有者の権利義務や管理に関するルールを定めています。具体的には専有部分と共有部分の区別、管理組合の設立義務、管理費の負担割合などを規定しています。
一方で「マンション標準管理規約」は国土交通省による参考規定で、実務に即した管理運営の指針という点が大きな違いです。つまり区分所有法は法律として強制力を持ちますが、標準管理規約は各マンションの状況に応じて修正が可能です。
【参考】国土交通省|マンション標準管理規約
管理組合について|設立・解散
マンションの区分所有者全員で構成される管理組合は、共有部分の管理や維持を行うために法律上設置が義務とされています。管理組合がないと維持管理が困難となり、住環境が悪化する可能性があり非常に重要です。
まず管理組合の「設立」は最初の所有者であるデベロッパーによってなされ、総会を開き役員を選任します。そして「解散」はマンションの建替えや取り壊しの決定、または全区分所有者の合意によって行われます。解散後は清算手続きが必要で、管理財産の処理などが行われます。
共有部分・専有部分について
「共有部分」とはマンションの全区分所有者が共同で使用する部分を指し、廊下・エレベーター・エントランス・外壁・屋根などが含まれます。個々の所有者ではなく、管理組合が維持管理する責任を持つのが特徴です。
一方で「専有部分」とは、区分所有者が単独で所有し自由に使用・処分できる部分を指します。具体的には、各住戸の内部(居室・キッチン・浴室など)が該当します。
ただし専有部分でも「窓ガラス・玄関ドア・バルコニーなど」は共有部分とされ、修繕の責任については管理規約で細かく定められています。そのため、専有部分の範囲や修繕負担のルールを正しく理解しておくことが重要です。
理事長の権限について
管理組合の運営を担う理事会の代表として、理事長は重要な権限を持ちます。理事長は管理組合総会で選出され、管理規約に基づいて管理会社の選定・契約、共有部分の修繕工事の決定、管理費の徴収などを主導するのが主な役割です。
ただし重要な事項(例:長期修繕計画の変更、大規模改修)は総会の決議が必要で、理事長単独で決定できる範囲は限られます。また理事長の権限を乱用するとトラブルの原因になるため、透明性のある運営が求められます。
2025区分所有法改正案の主な内容(国土交通省)
ここでは、区分所有法改正案の主な内容について解説します。
①集会の議決権の円滑化
これまで区分所有権の処分を伴わない事項(修繕や管理等)に関する決議では、「全区分所有者」の多数決が必要でした。そのため所在不明の所有者がいる場合、意思決定が滞ることが課題となっていました。
しかし改正案では、裁判所の許可を得ることで「所在不明の所有者を決議の母数から除外」できるようになります。さらにすべての決議において、「集会出席者」の多数決に緩和されます。
具体的には上図の場合、従来の方式では「賛成⅖」のため否決です。しかし法改正により、所在不明者と欠席者を除外できるため「賛成⅔」となり可決されます。これにより集会の出席者による多数決で修繕などの決議が可能となり、迅速な意思決定が期待されます。
②マンション等に特化した財産管理制度
老朽化したマンションの中には、管理組合が機能しておらず適切な維持管理が行われていないケースがあります。
そのため改正案では管理不全の専有部分や共有部分に対し、裁判所が専門の管理人を選任して適切な管理を行う制度が創設されます。これにより管理不全のマンションにおいても、専門家の関与による適切な維持管理が期待されます。
③新たな再生手法の創設
これまでマンションの建替えや大規模修繕の決議要件には「全員の同意」が必要とされており、合意形成が難しい状況がありました。しかし今後は、要件緩和により建物・敷地の一括売却や一棟リノベーション、建物の取壊し等を促していく方針です。
具体的には、下記割合での賛成による多数決決議が可能となります。
- 建物・敷地の一括売却や一棟リノベーション、建物の取壊し:4/5
- 耐震性不足等:¾
- 政令指定災害による被災:2/3
2025区分所有法改正の背景
ここでは、区分所有法等が改正されるに至った背景を解説します。
マンション居住者の増加
近年、都市部を中心にマンションの建設が進み、多くの人々が居住するようになりました。現在マンションの総数は約700万戸で、国土交通省によると「国民の1割以上が居住する重要な居住形態」とされています。
しかし築40年以上のマンションは全体の約2割(約137万戸)で、世帯主が70歳以上は5割以上となっています。さらに今後10年で2倍、20年で3.4倍になることが想定されているのが課題です。マンション管理に関するトラブルを未然に防ぐため、法的な整備が求められるようになりました。
マンションの「2つの老い」
マンションは、建物自体の老朽化と居住者の高齢化という「2つの老い」に直面しています。建物の老朽化に対しては修繕や建替えの必要性がありますが、居住者の高齢化によって管理組合の運営や合意形成が困難になっているのが課題です。
旧区分所有法では多数決合意ができない
従来の区分所有法では、マンションの重要な決定事項において全員一致や高い同意率が求められ、合意形成が難航するケースが多く見られました。とくに所在不明の所有者がいる場合や意見が分かれる場合には意思決定が停滞し、適切な管理や再生が困難です。
そのため、迅速かつ円滑な意思決定を可能にする法改正が求められています。
区分所有法改正の課題・デメリット
区分所有法等の改正により、マンションの抱える課題解決が期待されます。ただしデメリットも残っており、将来的にはさらなる改善が求められています。
区分所有者の負担は軽減されない
2025年の区分所有法改正により、意思決定の円滑化や管理制度の強化が図られました。しかし、区分所有者の経済的負担が直接軽減されるわけではありません。
具体的には建替えや修繕の決定がスムーズになっても、費用負担は従来どおり区分所有者が担うことになります。とくに高齢の居住者や経済的に厳しい方にとっては、修繕積立金や一時負担金の増加が大きな負担となる可能性があり、資金調達の仕組みのさらなる改善が求められます。
建て替えが即座に進む訳ではない
今回の法改正で建替えや敷地売却の決議要件が緩和され、老朽化マンションの再生が進みやすくなりました。しかし決議が可決されたとしても、資金調達、権利調整、住民の転居先の確保など、多くの課題が残ります。
また建設コストの上昇や再開発業者の確保が難しい場合、実際の建替えまでに長期間を要することもあります。そのため単なる法改正だけでなく、行政の支援や補助金制度の充実も必要です。
まとめ
マンション居住者が増加する中で、老朽化や管理の問題が顕在化しています。今回の法改正で建て替え等の決議が通りやすくなったため、適切な維持管理が期待されます。