老朽化マンションに国交省が対策|「建て替え費用が払えない」トラブルはどうする?

掲載日:
Category: 住宅業界動向

トレンドワード:老朽化マンション

「老朽化マンション」についてピックアップします。日本ではマンションの総数が700万戸を超え、中には老朽化が進んでいる建物も多いようです。将来「建て替え費用が払えない」といったトラブルを引き起こさないために、国交省では「マンションの管理・再生の円滑化等のための改正法案」を閣議決定しました。本記事では老朽化マンションの課題や、法改正の概要について分かりやすく解説します。

老朽化マンションとは|「2つの老い」

老朽化マンションとは、建築から数十年が経過して設備や構造が劣化したマンションのことを指します。老朽化には「物理的老い」と「社会的老い」の2種類があり、年々深刻化しているのが実情です。

具体的には「物理的老い」はコンクリートや配管の劣化、耐震性不足など建物自体の問題を指し、「社会的老い」は住民の高齢化や管理組合の機能低下を意味します。こういった要因が重なると修繕が困難になり、合意形成が進まず適切な管理ができないため、防災性や住環境が悪化するリスクが高まってしまうのが課題です。

老朽化マンションの課題・デメリット

ここでは、老朽化マンションの課題やデメリットについて整理しておきます。

設備や躯体が劣化する

老朽化マンションでは、給排水管や電気設備、外壁や屋根などが劣化しやすくなります。とくに築30年以上経過したマンションではコンクリートや鉄筋の劣化が進行し、耐久性が低下しているケースも多いようです。

また古い設備では部品が生産終了となっていることで修理が困難になるケースも多く、住環境の維持が難しくなります。これにより漏水や断水、停電などが頻発し、快適な居住が難しくなってしまうのが課題です。

安全性が保てなくなる

とくに1981年以前の「旧耐震基準」で建てられたマンションは、現行の耐震基準を満たしていないため大地震発生時に倒壊や部分崩壊の危険性が高まります。外壁タイルの剥離や落下事故の危険性があり、住民だけでなく周囲の安全も脅かしてしまいます。

【参考】国土交通省住宅・建築物の耐震化について

管理費・修繕積立金が高くなる

老朽化が進むと設備の修繕や改修が頻繁に必要となり、管理費や修繕積立金が大幅に増加することがあります。大規模修繕工事や耐震補強工事には多額の費用がかかり、住民の負担が重くなってしまうのが課題です。

しかし住民の高齢化に伴い費用負担に耐えられないケースも増加し、管理組合が財政難に陥ることも少なくありません。結果として修繕が後回しとなり、建物の劣化が加速するという悪循環が生じます。

売却の可能性が低くなる

老朽化マンションは買い手にとってリスクが大きい場合が多く、売却が難しくなります。とくに耐震基準を満たしていない場合や大規模修繕計画が未定のマンションは資産価値が低い傾向が見られ、不動産市場で敬遠されがちです。

これにより、住み替えや資産運用が困難になるというデメリットがあります。

マンションが廃墟・スラム化する

老朽化が進行して管理不全が深刻化すると、マンションが廃墟化やスラム化するリスクが高まります。特に管理組合が機能しなくなると清掃や防犯対策が行き届かなくなり、ゴミの放置や不法占拠が発生しやすくなってしまいます。

一度スラム化すると再生が困難で、地域社会にも悪影響を及ぼしてしまうため早めの対策が必要です。

老朽化マンションの対策

ここでは、老朽化マンションが取るべき対策について解説します。

大規模修繕で耐震・改修工事をする

老朽化マンションの安全性を確保するためには、大規模修繕や耐震補強工事が重要です。具体的には外壁補修や屋上防水、給排水管の更新、耐震壁の追加などが含まれます。

とくに築30年以上経過しているマンションでは劣化診断を実施し、適切な修繕計画を立てることが不可欠です。これにより、快適な住環境を維持できます。

しかし工事費用が高額で、修繕積立金が不足している場合には住民間の合意形成が課題となるため、専門家の支援を受けながら計画を進めることが望ましいでしょう。

マンションの敷地ごと売却する

マンション全体を敷地ごと売却する「敷地売却制度」を活用すれば、建物を解体して土地を一括で売却できます。これにより老朽化した建物の維持費を削減でき、再開発プロジェクトに活用できる場合があります。

しかしこれには「区分所有者集会における5分の4以上の賛成」が必要であり、売却価格の算定や住み替え支援策の検討が求められる点には注意が必要です。住民の高齢化が進む中で合意形成が難航するケースが多く、自治体や専門家のサポートがポイントとなります。

【参考】国土交通省|≪マンション建替え・敷地売却フロー図≫(代表的なマンション建替えの手法)

建て替えをする

老朽化が深刻で修繕が現実的でない場合、マンションを建て替えるという選択肢があります。建て替えには多額の費用がかかるものの、新築マンションとしての資産価値が向上し、安全性や快適性も向上します。

ただし区分所有者の5分の4以上の合意が必要であり、負担額や住み替え期間の調整が大きな課題です。デベロッパーや行政支援サービスを活用することで、負担を軽減できる場合があります。

「建て替え費用が払えない」原因|住民たちの末路はどうなる?

老朽化マンションの末路として「建て替え費用が払えない」といった状況に陥るケースがあります。こうなってしまう原因としては、下記の項目が考えられます。

積立金の設定額が低かった

最初に設定された修繕積立金が低すぎると、経年劣化による修繕が必要になった時に資金不足に陥ります。とくに分譲当初は販売促進のために積立金を低額に設定しているケースが多く、そのまま長期間変更されないことが問題です。

結果として住民の負担が急増し、合意形成が難しくなり老朽化が加速する悪循環に陥ります。 

滞納者が多い

管理費や修繕積立金を滞納する割合が増えると管理組合の財政が圧迫され、建て替えに必要な資金が不足してしまいます。特に高齢化や収入減少により、支払い能力が低下するケースが多く見られます。

工事費・人件費の高騰

近年、建築資材の価格や労務費が急激に高騰しており、当初計画していた建て替え費用ではまかなえないケースが増えています。とくにコロナ禍やウクライナ情勢の影響で資材不足が深刻化し、見積額が急上昇していることが原因です。

さらに人手不足による施工費用の高騰も重なり、住民が当初見込んでいた負担額を大きく上回る事態となるケースも増えています。これにより合意が得られないと、建て替え計画自体が頓挫してしまうリスクが高まります。  

大規模修繕計画の見直しをしなかった

老朽化が進んでも大規模修繕計画を見直さずに放置していた場合、問題が顕在化したときには費用が膨れ上がっているケースが多々あります。とくに耐震補強が必要となった場合や給排水設備の全面更新が求められる際には、一気に負担が増加します。

老朽化マンションに関する法律|国土交通省が対策へ

出典:国土交通省,マンションの管理・再生の円滑化等のための改正法案を閣議決定,https://www.mlit.go.jp/report/press/house03_hh_000224.html,参照日2025.3.25

老朽化マンションの問題は、今後ますます深刻になることが予想されます。そのため国交省では「マンションの管理・再生の円滑化等のための改正法案(老朽化マンション等の管理及び再生の円滑化等を図るための建物の区分所有等に関する法律等の一部を改正する法律案)」を検討しています。

法律案の主な概要は、下記の通りです。

1.管理の円滑化

マンション管理の円滑化では、下記の4点が検討されています。

  • 新築時から適切な管理や修繕が行われるよう、分譲事業者が管理計画を作成し、管理組合に引き継ぐ仕組みを導入。
  • マンション管理業者が管理組合の管理者を兼ね工事等受発注者となる場合、利益相反の懸念があるため、自己取引等についての区分所有者への事前説明を義務化。
  • 修繕等の決議は、集会出席者の多数決によることを可能に。
  • 管理不全の専有部分等を裁判所が選任する管理人に管理させる制度を創設。

①適正な管理を促す仕組みの充実(マンション管理法)

新築時から、適切な管理や修繕が行われるような仕組みの導入が検討されています。具体的には分譲事業者が管理計画を作成し、管理組合に引き継ぐ仕組み(分譲事業者と管理組合で共同変更)となります。

ただし管理業者が管理組合の管理者(代表者)を兼ね工事等受発注者となる場合には利益相反の懸念があるため、自己取引等につき区分所有者への事前説明が義務化される予定です。

②集会の決議の円滑化(区分所有法)

出典:国土交通省,マンションの管理・再生の円滑化等のための改正法案を閣議決定,https://www.mlit.go.jp/report/press/house03_hh_000224.html,参照日2025.3.25

現行では、区分所有権の処分を伴わない事項(修繕等)の決議は「全区分所有者」の多数決と定められています。しかし区分所有法改正により「集会出席者」の多数決で決議可能となります。

さらに裁判所が認定した「所在不明者」を、全ての決議の母数から除外する制度が創設される予定です。これにより、決議が取りやすくなります。

③マンション等に特化した財産管理制度(区分所有法・マンション管理法)

管理不全の専有部分・共用部分等を、裁判所が選任する管理人に管理させる制度が創設されます。

2.再生の円滑化

マンション再生の円滑化では、下記の3点が検討されています。

  • 建物・敷地の一括売却、一棟リノベーション、建物の取壊し等を、建替えと同様に多数決決議によることを可能とするとともに、これらの決議に対応した事業手続等を整備する。
  • 隣接地や底地の所有権等について、建替え等の後のマンションの区分所有権に変換することを可能にする。
  • 耐震性不足等で建替え等をする場合における特定行政庁の許可による高さ制限の特例を創設する。

①新たな再生手法の創設等(区分所有法・マンション再生法等)

出典:国土交通省,マンションの管理・再生の円滑化等のための改正法案を閣議決定,https://www.mlit.go.jp/report/press/house03_hh_000224.html,参照日2025.3.25

建物・敷地の一括売却、一棟リノベーション、建物の取壊し等について、建替えと同様に多数決決議(4/5)で可能となります。そしてこの決議に対応した事業手続等が整備される予定です。

②多様なニーズに対応した建替え等の推進(マンション再生法)

隣接地や底地の所有権等について、建替え等の後のマンションの区分所有権に変換することが可能になります。また耐震性不足等で建替え等をする場合、容積率のほか特定行政庁の許可による高さ制限の特例を受けられるようになります。

3.地方公共団体の取組の充実

地方公共団体の取組の充実では、下記の2点が検討されています。

  • 外壁剝落等の危険な状態にあるマンションに対する報告徴収、助言指導・勧告、あっせん等を措置する。
  • 区分所有者の意向把握、合意形成の支援等の取組を行う民間団体の登録制度を創設する。

①危険なマンションへの勧告等

外壁剥落等の危険な状態にあるマンションに対する報告徴収、助言指導・勧告、あっせん等を行います。

②民間団体との連携強化

区分所有者の意向把握、合意形成の支援等の取組を行う民間団体の登録制度を創設します。

まとめ

老朽化マンションをそのまま放置してしまうと、スラム化等の問題につながってしまいます。現在700万戸を超えるマンションに対しては、国土交通省による「マンションの管理・再生の円滑化等のための改正法案」が大きな役割を果たすと期待されています。新築時だけでなく再生までのライフサイクル全体を見通して、管理の円滑化等を図ることが必要です。