界壁とは|建築基準法改正や遮音・防火性能の基準をチェック

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「界壁」についてピックアップします。共同住宅や長屋など複数の住戸が隣接する建物では、住戸間を区切る「界壁(戸境壁)」の設置が重要です。

界壁は火災時の延焼防止や生活音の遮断に大きく関わり、安全で快適な住環境を守る役割を果たします。本記事では界壁の定義や法規制、必要となる建築物、計画時の注意点について詳しく解説します。

界壁(戸境壁)とは

ここではまず、界壁(戸境壁)の定義や基準について解説します。

建築基準法での定義

界壁(戸境壁)とは共同住宅などの住戸間を区画する壁のことを指し、火災時の延焼防止と生活音の遮断を目的としています。建築基準法では、下記のように定義されています。

建築基準法第三十条

長屋又は共同住宅の各戸の界壁は、次に掲げる基準に適合するものとしなければならない。

  • 一 その構造が、隣接する住戸からの日常生活に伴い生ずる音を衛生上支障がないように低減するために界壁に必要とされる性能に関して政令で定める技術的基準に適合するもので、国土交通大臣が定めた構造方法を用いるもの又は国土交通大臣の認定を受けたものであること。
  • 二 小屋裏又は天井裏に達するものであること。

【参考】e-GOV|建築基準法第三十条

具体的には住戸間の界壁は小屋裏や天井裏まで達し、隙間がないことが求められています。これにより火災発生時に隣室への延焼を一定時間防ぎ、居住者の安全を確保するのが重要な役割です。そのため、基本的に準耐火性能にすることが求められます。

界壁の規制緩和|2019年・建築基準法改正

出典:国土交通省,建築基準法の一部を改正する法律案改正概要,https://www.mlit.go.jp/common/001237294.pdf,参照日2025.7.3

2019年の建築基準法改正により、界壁に関する一部規制が緩和されました。従来は天井裏まで延焼を防ぐ必要がありましたが、天井の構造を遮音性能の技術的基準に適合させれば、界壁を小屋裏に達しなくてもよいことに改正されています。

この法改正により施工の自由度が高まり、コスト削減や設計の柔軟性が向上しています。ただし遮音性能や火災に対する安全性は引き続き確保しなければならず、一定の技術基準を満たす必要があるため注意しましょう。

【参考】国土交通省|建築基準法の一部を改正する法律案改正概要

界壁と他の種類の違い

ここでは、界壁と似ている他の構造種類について解説します。

隔壁

隔壁は建物内部の空間を区切るための壁で、主に防火や防煙の目的で設置される構造です。界壁が住戸同士を区切るのに対し、隔壁は廊下や階段室と居室を分ける場面にも使われます。

建築基準法では、隔壁について下記の通り定められています。

  • 建築面積が300㎡を超える建築物の小屋組が木造である場合においては、小屋裏の直下の天井の全部を強化天井とするか、又は桁行間隔12m以内ごとに小屋裏(準耐火構造の隔壁で区画されている小屋裏の部分で、当該部分の直下の天井が強化天井であるものを除く)に準耐火構造の隔壁を設けなければならない。

【参考】e-GOV|建築基準法第百十四条

間仕切壁

間仕切壁は、同じ住戸内や同一の使用空間内で部屋を区切るための壁です。構造的な耐力は不要で、主に間取り空間の構成やプライバシー確保のために設置されます。

界壁や隔壁とは異なり、比較的軽量な材料で施工されることが多くなります。ただし防火上主要な場合には準耐火構造にする必要があり、注意が必要です。

【参考】e-GOV|建築基準法第百十四条

界床

界床は、上下階の住戸を区切る床構造のことを指します。界壁が水平方向の区画であるのに対して界床は鉛直方向の区画に該当し、遮音性や耐火性能が求められます。

とくに共同住宅においては、生活音や火災の影響が上下階に伝わりにくい設計が重要です。ただし、界床に関する建築基準法での規定はありません。

界壁の構造の種類

ここでは、界壁の構造の種類について解説します。

【参考】建設省告示第1827号|遮音性能を有する長屋又は共同住宅の界壁の構造方法を定める件 

①下地等なし

建設省告示第1827号第一では、「下地等あり」の界壁について下記のように定められています。

第一 下地等を有しない界壁の構造方法

間柱及び胴縁その他の下地(以下「下地等」という。)を有しない界壁にあつては、その構造が次の各号のいずれかに該当するものとする。

  • 一 鉄筋コンクリート造、鉄骨鉄筋コンクリート造又は鉄骨コンクリート造で厚さが10cm以上のもの
  • 二 コンクリートブロック造、無筋コンクリート造、れんが造又は石造で肉厚及び仕上げ材料の厚さの合計が10cm以上のもの
  • 三 土蔵造で厚さが15cm以上のもの
  • 四 厚さが10cm以上の気泡コンクリートの両面に厚さが1.5cm以上のモルタル、プラスター又はしつくいを塗つたもの
  • 五 肉厚が5cm以上の軽量コンクリートブロックの両面に厚さが1.5cm以上のモルタル、プラスター又はしつくいを塗つたもの
  • 六 厚さが8cm以上の木片セメント板(かさ比重が0.6以上のものに限る。)の両面に厚さが1.5cm以上のモルタル、プラスター又はしつくいを塗つたもの
  • 七 鉄筋コンクリート製パネルで厚さが4cm以上のもの(1㎡当たりの質量が110kg以上のものに限る。)の両面に木製パネル(1㎡当たりの質量が5kg以上のものに限る。)を堅固に取り付けたもの
  • 八 厚さが7cm以上の土塗真壁造(真壁の四周に空隙のないものに限る。)

②下地等あり

建設省告示第1827号第二では、「下地等あり」の界壁について下記のように定められています。

下地等を有する界壁にあつては、その構造が次の各号のいずれかに該当するものとする。

一 下地等の両面を次のイからニまでのいずれかに該当する仕上げとした厚さが13cm以上の大壁造であるもの

  • イ 鉄網モルタル塗又は木ずりしつくい塗で塗厚さが2cm以上のもの
  • ロ 木毛セメント板張又は石膏ボード張の上に厚さ1.5cm以上のモルタル又はしつくいを塗つたもの
  • ハ モルタル塗の上にタイルを張つたものでその厚さの合計が2.5cm以上のもの
  • ニ セメント板張又は瓦張の上にモルタルを塗つたものでその厚さの合計が2.5cm以上のもの

二 次のイ及びロに該当するもの

  • イ 界壁の厚さ(仕上材料の厚さを含まないものとする)が10cm以上であり、その内部に厚さが二・五センチメートル以上のグラスウール(かさ比重が0.02以上のものに限る。)又はロックウール(かさ比重が0.04以上のものに限る)を張つたもの
  • ロ 界壁の両面を次の(1)又は(2)のいずれかに該当する仕上材料で覆つたもの

(1) 厚さが1.2cm以上の石膏ボード、厚さが2.5cm以上の岩綿保温板又は厚さが1.8cm以上の木毛セメント板の上に厚さが0.09cm以上の亜鉛めつき鋼板、厚さが0.4cm以上の石綿スレート又は厚さが0.8cm以上の石綿パーライト板を張つたもの

(2) 厚さが0.6cm以上の石綿スレート、厚さが0.8cm以上の石綿パーライト板又は厚さが1.2cm以上の石膏ボードを二枚以上張つたもの

界壁が必要な建築物

建築基準法施行令第114条には、「長屋又は共同住宅の各戸の界壁」という記載があります。そのため、長屋・共同住宅の詳しい定義について解説します。

「ホテルや寄宿舎にも界壁が必要なのでは?」と思われがちですが、建築基準法における規定はとくにありません。

【参考】e-GOV|建築基準法施行令第百十四条

長屋

長屋とは、各住戸が界壁を共有しながら建物の出入口がそれぞれ独立している形式の住宅です。建築基準法では長屋でも住戸間の界壁が必要とされ、防火と遮音の観点から一定の性能が求められます。

長屋の界壁は隣接住戸間での火災の拡大を防ぐ重要な役割を担っており、適切な施工が必要です。

共同住宅(マンション・二世帯住宅等)

建築基準法では、共同住宅の住戸間に界壁を設置することが義務付けられています。界壁は火災時の延焼防止や生活音の遮断を目的とし、天井裏や小屋裏まで達する構造が原則です。

とくにマンションや二世帯住宅といった複数の独立した住戸が集まる建物では、住戸ごとに明確な防火区画を設けることが求められます。

界壁の役割・メリット

ここでは、界壁の主な役割やメリットについて解説します。

遮音性能

建築基準法第30条には、界壁の遮音性能について下記の通り定められています。

長屋又は共同住宅の各戸の界壁は、次に掲げる基準に適合するものとしなければならない。

  • 一 その構造が、隣接する住戸からの日常生活に伴い生ずる音を衛生上支障がないように低減するために界壁に必要とされる性能に関して政令で定める技術的基準に適合するもので、国土交通大臣が定めた構造方法を用いるもの又は国土交通大臣の認定を受けたものであること。
  • 二 小屋裏又は天井裏に達するものであること。

【参考】e-GOV|建築基準法第三十条

防火性能

建築基準法施行令第114条では、「長屋又は共同住宅の各戸の界壁(自動スプリンクラー設備等設置部分その他防火上支障がないものとして国土交通大臣が定める部分の界壁を除く。)は、準耐火構造とし、第百十二条第四項各号のいずれかに該当する部分を除き、小屋裏又は天井裏に達せしめなければならない」と定められています。

つまり、界壁は基本的に準耐火構造にする必要があります。ただし耐火建築においては「耐火構造」が求められるため注意が必要です。

【参考】e-GOV|建築基準法施行令第百十四条

プライバシーの確保

界壁は、住戸間の音を遮断して隣戸の生活音や話し声の侵入を防ぐことで、プライバシーを確保する重要な役割を担います。とくに共同住宅や長屋では住戸間が近接しているため、界壁の遮音性能が快適な住環境に直結します。

高性能な界壁を設けることで住戸ごとの独立性を保ち、安心して生活できる空間を実現しましょう。

界壁計画の注意点

ここでは、界壁計画の注意点について解説します。

照明は設置不可の場合も

界壁は火災時の延焼を防ぐため、原則として隙間なく連続した構造であることが求められます。そのため界壁部分には、照明や換気口などの開口部を設けることが制限される場合があるので注意しましょう。

具体的には、階段のブラケット(壁付照明)やフットライト等が設置できないケースが見られます。界壁を避けて間仕切壁に設置したり、天付照明に変更したりして対応しましょう。

配線器具は耐火被覆が必要

界壁を貫通する電気配線やコンセントなどの配線器具は、火災時の延焼防止の観点から耐火被覆や気密処理が義務付けられています。これにより、火や煙が界壁を通じて隣戸に広がるのを防げます。

施工時には専用の耐火パテやボックスを使用し、建築基準法で定められた耐火性能を確実に確保することが必要です。

界壁の改修工事は難しい

界壁は耐火・遮音性能を維持する必要があるため、改修やリフォームの際に簡単に変更できる部分ではありません。とくに後から配管や配線を追加する場合、界壁を貫通する工事は技術的に難しく、法令遵守のために専門的な設計・施工が求められます。

このように、界壁改修では事前の詳細な計画と慎重な施工管理が不可欠です。

まとめ

界壁(戸境壁)は、共同住宅や長屋で住戸間の火災延焼防止やプライバシー確保に欠かせない重要な構造です。そのため設計時には耐火・遮音性能を確保し、配線や設備設置にも細心の注意が求められます。改修工事では制約が発生するため、慎重に計画するようにしましょう。