高断熱住宅のメリット・デメリット|国交省設計ガイドまとめ

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Category: 住宅業界動向

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「高断熱住宅」についてピックアップします。快適な住環境や省エネへの関心が高まる中で、「高断熱住宅」が注目されています。高断熱住宅は外気の影響を受けにくく、夏は涼しく冬は暖かい住まいを実現することで、光熱費の節約や健康維持にもつながるメリットがあります。本記事では、高断熱住宅の特徴や性能基準、メリット・デメリットについてわかりやすく解説します。

高断熱住宅とは

高断熱住宅とは、外気の影響を受けにくく室内の快適な温度を保ちやすい構造を持つ住宅のことを指します。断熱性能が高いと冷暖房効率が向上し、エネルギー消費を抑えることが可能です。

冬は暖かく夏は涼しい空間を実現できるため、快適性と経済性を両立できるのが特徴です。近年では健康への配慮や環境意識の高まりから、新築住宅を中心に高断熱化が進んでいます。

「断熱等性能等級 6、7」の基準

出典:国土交通省,断熱性の高い住宅の設計のポイント、紹介します!,https://www.mlit.go.jp/report/press/house04_hh_001264.html,参照日2025.4.29

従来までの断熱等級は「等級4」が最高レベルでしたが、2022年に「等級5、6、7」が創設されました。

主な数値は、上表の通りです。地域区分ごとに外皮平均熱貫流率(UA値)の上限が設定されており、最高レベルの「等級7」では北海道など寒冷地でも暖房エネルギーを大幅に抑えることが求められます。

高断熱住宅のメリット

ここでは、高断熱住宅のメリットについて解説します。

光熱費を節約できる

高断熱住宅は、外気温の影響を受けにくいため、冷暖房に必要なエネルギーを大幅に削減できます。少ないエネルギーで室内の温度を保てるので、エアコンや暖房器具の稼働時間が短くなり、結果として光熱費の節約につながります。長期的に見ると、初期の設備投資を上回る経済的メリットを得られる可能性もあり、家計にやさしい住まい方が実現できます。

温熱環境が整う

高断熱住宅では、家全体の温度差が小さくなり、快適な室内環境を保ちやすくなります。特に冬場でも廊下や脱衣所が寒くなりにくく、ヒートショックのリスクを軽減できます。冷暖房を使った際も均一に空間が温まりやすいため、部屋ごとの不快な温度差が少なく、どこにいても快適に過ごせる空間づくりが可能になります。

健康維持につながる

高断熱住宅は温度差が少ないため、身体への負担が減り、健康維持にも効果的です。特に高齢者にとってはヒートショックや冷えによる体調不良を防ぐうえで重要なポイントです。また、結露の発生が抑えられることでカビやダニの繁殖を防ぎ、呼吸器系の疾患やアレルギー症状の予防にもつながります。快適性と健康を同時に守る住まいと言えます。

防音性能が高い

高断熱住宅では、壁や窓に使用される断熱材や気密性の高い構造により、外部からの騒音が入りにくく、内部の音も漏れにくくなります。交通量の多い道路沿いや近隣との距離が近い場所でも、静かな生活空間を確保しやすくなります。また、室内の音が外に漏れにくいため、プライバシーの保護にも有効です。音環境のストレスを減らしたい方にとっても大きなメリットです。

高断熱住宅のデメリット・注意点

ここでは、高断熱住宅のデメリットや注意点について紹介します。

建築費用が高い

高断熱住宅は、断熱材の性能や施工精度にこだわる必要があるため、一般的な住宅に比べて建築コストが高くなる傾向があります。断熱材や高性能な窓、気密性を保つ工法などの導入により、初期投資が増える点は否めません。ただし、長期的には光熱費の削減や快適性の向上によって、コストメリットが得られる可能性もあるため、総合的な判断が重要です。

室内が乾燥しやすい

高断熱・高気密の住宅は、外気との出入りが少ない分、冬場などは室内の湿度が低下しやすくなります。暖房を使用するとさらに空気が乾きやすく、肌の乾燥や喉の不調を感じることも。快適な湿度を保つためには、加湿器の設置や室内干しの活用など、湿度調整の工夫が必要です。家族の健康を守るうえでも、乾燥対策は重要なポイントになります。

換気設備が必要

高断熱住宅では気密性が高いため、自然な空気の入れ替えがほとんど行われません。そのため、室内の空気を清潔に保つには、計画的な換気システムの導入が欠かせません。換気が不十分だと、二酸化炭素の濃度が上がったり、湿気やにおいがこもったりすることがあります。第一種換気(機械による給排気)などの高性能な換気設備の設計とメンテナンスが重要です。

結露対策が求められる

高断熱住宅では壁体内や窓周辺での結露を防ぐため、断熱と同時に適切な気密施工と換気計画が求められます。室内外の温度差が大きい冬場には、湿気がこもることで隠れた結露が発生しやすく、これがカビや構造材の劣化につながるおそれも。結露を防ぐには、断熱性能だけでなく、空気の流れや湿度管理を意識したトータルな住まいづくりが必要です。

2025高断熱住宅の設計ガイド|国土交通省

ここでは、2025年に国土交通省から発表されている「省エネ性能に優れた断熱性の高い住宅の設計ガイド」について解説します。

①季節・方位・時間に応じて日射を調整できる設計

高断熱住宅は、室内に入った熱が逃げないことが特徴です。とくに開口部は外壁や屋根等と比べると熱の出入りが大きいため、季節・方位・時間に応じて日射を上手に調整する必要があります。

(1)開口部・開口部材による日射調整

出典:国土交通省,断熱性の高い住宅の設計のポイント、紹介します!,https://www.mlit.go.jp/report/press/house04_hh_001264.html,参照日2025.4.29

窓には日射熱を取り入れる役割(取得)と遮る役割(遮蔽)の両面があり、それぞれに適した窓があり、冬期の日射取得と夏期の日射遮蔽のバランスを考慮して検討することが必要です。

具体的には「日射取得型」は、冬期の日射を室内に取り入れて室内を暖めるのに効果的となります。ただし夏期の日射を遮るため、軒・庇、すだれやブラインドなどを設けるのがおすすめです。

そして「日射遮蔽型」は、夏期の日射を遮り室内の温度上昇を抑えるのに効果的です。ただし冬期の日射も遮ってしまうため、寒冷地では設置場所をよく検討する必要があります。

(2)軒・庇と日射遮蔽部材の組合せによる外部での日射調整

出典:国土交通省,断熱性の高い住宅の設計のポイント、紹介します!,https://www.mlit.go.jp/report/press/house04_hh_001264.html,参照日2025.4.29

日射の影響を受ける窓については、基本的には軒・庇と日射遮蔽部材の組合せで外部での日射調整を図ります。主開口が南面の場合、軒・庇にすだれやよしず、スクリーンまたはシャッター等を組み合わせると効果的です。

長さや高さ、角度の調整によって、太陽高度がやや低くなる時期の日射遮蔽にも対応できます。軒・庇の出によって日陰空間ができることも、室温上昇抑制のために有効です。

②家中を快適にするための適切な暖冷房設備・換気設備の設置

高断熱住宅では、高効率で暖冷房負荷に応じた能力の機器を選定する必要があります。併せて快適性に対する配慮として、除湿機能のある機器や再熱除湿タイプが推奨されています。

(1)適切な暖冷房設備の選定

エアコンの「畳数の目安」は断熱性の低い住宅を想定しているため、高断熱住宅でそのまま適用するとオーバースペックになってしまいます。そのため「暖房負荷」を計算して計画することが大切です。暖房負荷は、以下の計算で求められます。

暖房負荷=(UA値の計算過程で算出される熱損失量の合計+換気による熱損失量の合計)×内外温度差(設定室温-年間最低外気温)

(2)暖冷房方式と設置位置

出典:国土交通省,断熱性の高い住宅の設計のポイント、紹介します!,https://www.mlit.go.jp/report/press/house04_hh_001264.html,参照日2025.4.29

等級 6、7 といった高断熱住宅では家全体の温度ムラが小さくなるので、部屋を細かく仕切る必要がなくなります。そのため吹抜けや開放型の階段を設けたり、リビング階段といった空間構成にしたりしても、少ないエネルギーで効率よく家全体を暖冷房することが可能です。

(3)快適な室内空気環境の維持

出典:国土交通省,断熱性の高い住宅の設計のポイント、紹介します!,https://www.mlit.go.jp/report/press/house04_hh_001264.html,参照日2025.4.29

気密化には、以下3つの目的があります。

  • ①漏気による熱損失を抑えること。
  • ②換気経路を明確にして、計画換気を行うこと。
  • ③壁体内への湿気の流入を抑えること。

断熱性が高ければ高いほど隙間からの漏気による熱ロスを防ぐための気密性が重要であり、断熱と気密はセットで考えることが必要です。

高断熱住宅では家全体の室温が安定しているため、天井の高い吹き抜けや大開口、仕切りの少ない連続性のある間取りといった開放的な空間構成が可能です。これにより、ニーズに合わせた自由度が高いプランニングが実現します。

③レジリエンス性の向上

出典:国土交通省,断熱性の高い住宅の設計のポイント、紹介します!,https://www.mlit.go.jp/report/press/house04_hh_001264.html,参照日2025.4.29

高断熱住宅では、自然エネルギー利用システムや高効率機器等(太陽光発電システム、蓄電池、エネファーム(家庭用燃料電池)、高効率給湯機器(貯湯タイプ))を利用することで、さらなる省エネ化を図れます。機器選定や設置に際しては、レジリエンス性の高いものを選択することが大切です。

まとめ

高断熱住宅は、省エネや健康維持といった観点から重要度が高まっています。国土交通省でも設計ガイドを公表しており、さらなる広がりが期待されています。