建築基準法「内装制限」とは|不燃・難燃の基準や法改正の規制緩和を解説

掲載日:
Category: 住宅業界動向

トレンドワード:内装制限

「内装制限」についてピックアップします。火災が発生した際に被害を最小限に抑えるためには、建物の構造や内装材に対する対策が不可欠です。中でも「内装制限」は建築基準法や消防法によって定められた重要な規定であり、延焼防止や安全な避難の確保を目的としています。本記事では内装制限の概要や対象建築物、適用される構造、消防法との違い、さらに近年の木材利用推進の動きについても分かりやすく解説します。

内装制限とは|建築基準法を分かりやすく解説

出典:国土交通省,建築基準法制度概要集,https://www.mlit.go.jp/common/001215161.pdf,参照日2025.5.27

内装制限とは、建築物の内部仕上げに関して火災時の安全性を確保するために、使用する材料や施工方法を制限する建築基準法上の規定です。主に劇場、病院、百貨店など不特定多数の人が利用する建物や、火気を利用する空間等に適用されます。

「建築基準法 第35条の2」には、下記の内容が定められています。

別表第一(い)欄に掲げる用途に供する特殊建築物、階数が三以上である建築物、政令で定める窓その他の開口部を有しない居室を有する建築物、延べ面積が千平方メートルをこえる建築物又は建築物の調理室、浴室その他の室でかまど、こんろその他火を使用する設備若しくは器具を設けたものは、政令で定めるものを除き、政令で定める技術的基準に従つて、その壁及び天井(天井のない場合においては、屋根)の室内に面する部分の仕上げを防火上支障がないようにしなければならない。

※建築基準法 第三十五条の二(特殊建築物等の内装)より

つまり壁や天井の仕上げに防火対策を施すことで、火災の際に内装材が燃え広がるのを防ぎ避難時間を確保することが目的です。具体的には「不燃材、準不燃材」などの区分が定められており、用途や規模、避難経路の有無に応じて適用基準が異なります。

【参考】e-GOV|建築基準法

内装制限の対象建築物

出典:国土交通省,建築基準法制度概要集,https://www.mlit.go.jp/common/001215161.pdf,参照日2025.5.27

ここでは「建築基準法 第35条の2」「建築基準法施行例 第128条の4」で定められている、内装制限の対象建築物について解説します。

【参考】

e-GOV|建築基準法 第三十五条の二

e-GOV|建築基準法施行令 第百二十八条の四

特殊建築物(地上・地階)

用途規模居室等通路等
①劇場、映画館、演芸場、観覧場、公会堂、集会場等●400㎡以上の耐火建築物
●100㎡以上の準耐火建築物
●100㎡以上のその他建築物
難燃材料準不燃材料
②病院、診療所、ホテル、旅館、下宿、共同住宅、寄宿舎等●3階以上の部分の床面積の合計が300㎡以上の耐火建築物
●2階以上の部分の床面積の合計が300㎡以上の準耐火建築物
●200㎡以上のその他建築物
難燃材料準不燃材料
③百貨店、マーケット、展示場、キャバレー、カフェー、ナイトクラブ、バー、ダンスホール、遊技場等●3階以上の部分の床面積の合計が1,000㎡以上の耐火建築物
●2階以上の部分の床面積の合計が500㎡以上の準耐火建築物
●200㎡以上のその他建築物
難燃材料準不燃材料
上①~③の地階すべて適用準不燃材料準不燃材料

※「居室」については、壁のうち床面から1.2m以下の部分は対象外。3階以上の階を特殊建築物の用途とする場合、天井は準不燃材料で仕上げる必要がある。

※「通路等」では、避難階段・特別避難階段の場合、内装及び下地を不燃材料とする必要がある。

劇場、映画館、百貨店、病院、学校など不特定多数の人が利用する特殊建築物では、火災時の被害拡大を防ぐため内装制限が適用されます。とくに地上階でも多数の人が集まる用途の場合や、地下階では避難が困難なため、厳しい制限が課されています。

「耐火建築物」等の構造の種類については、次項「内装制限の構造の種類」で詳しく解説しているため参考にしてみてください。

大規模建築物

用途規模居室等通路等
すべての用途●階数3以上・延べ面積500㎡超
●階数2・延べ面積1,000㎡超
●階数1・延べ面積3,000㎡超
難燃材料準不燃材料

※「居室」については、壁のうち床面から1.2m以下の部分は対象外。

※「通路等」では、避難階段・特別避難階段の場合、内装及び下地を不燃材料とする必要がある。

大規模建築物は、用途に関わらず内装制限の対象となります。これは建物が大規模になるほど火災のリスクが高まり、被害が拡大しやすいためです。

広い建物内では避難経路が長くなる傾向があり、内装材が燃え広がることで避難時間が短くなってしまう危険があるため、不燃性の高い材料の使用が義務付けられています。

車庫

用途規模居室等通路等
自動車車庫・修理工場すべて適用準不燃材料準不燃材料

※「通路等」では、避難階段・特別避難階段の場合、内装及び下地を不燃材料とする必要がある。

車庫など可燃物を多く含む自動車を収容する建築物も、内装制限の対象です。とくに閉鎖的な構造で排煙が難しい場合、火災発生時の煙や熱がこもりやすく、急速に燃え広がるおそれがあります。

そのため、壁や天井の内装材には不燃性能が求められます。併設する建築物へ火が移らないようにするためにも、火災抑制の観点から重要です。

無窓居室

用途規模居室等通路等
内装制限上の無窓居室すべて適用準不燃材料準不燃材料

※「通路等」では、避難階段・特別避難階段の場合、内装及び下地を不燃材料とする必要がある。

「無窓居室」とは、「建築基準法施行例 第百二十八条の三の二」で下記のとおり定められています。

  • 一 床面積が50㎡を超える居室で窓その他の開口部の開放できる部分(天井又は天井から下方80㎝以内の距離にある部分に限る。)の面積の合計が、当該居室の床面積の1/50未満のもの
  • 二 法第二十八条第一項ただし書に規定する温湿度調整を必要とする作業を行う作業室その他用途上やむを得ない居室で同項本文の規定に適合しないもの

外気に面する開口部がない、または小さい居室(無窓居室)は火災時に煙や熱がこもりやすく、避難が困難になるため内装制限の対象となります。自然換気や排煙が難しいことから、火災時に内装材が発火・延焼しにくい不燃性のものとすることが義務付けられています。

【参考】e-GOV|建築基準法施行令 第百二十八条の三の二

火気使用室

用途規模居室等
住宅最上階を除く(階数2以上)準不燃材料
住宅以外すべて適用準不燃材料

厨房やボイラー室など、日常的に火を使用する火気使用室は、火災発生の可能性が高いため厳しい内装制限が設けられています。熱や火花により内装材が引火しやすくなるため、準不燃材料の使用が原則です。

ただし住宅では「最上階にあるキッチンは内装制限の対象外」です。つまり2階建て住宅の2階や平屋にあるキッチンでは、内装制限を考慮しなくても問題ありません。

またIHコンロは火力ではなく電力設備なので、建築基準法 第三十五条の二「かまど、こんろその他火を使用する設備若しくは器具を設けたもの」に該当しません。そのため、最上階のキッチン以外でも内装制限の対象外です。

内装制限の構造の種類

ここでは「特殊建築物」で紹介した、構造の種類について分かりやすく解説します。住宅の場合でも、用途地域によっては耐火や準耐火を満たす必要があるため注意しましょう。

耐火建築物

出典:国土交通省,建築基準法制度概要集,https://www.mlit.go.jp/common/001215161.pdf,参照日2025.5.27

耐火建築物とは、主要構造部(柱・梁・床・壁など)がすべて耐火性能を持つ材料や構造で造られた建築物を指します。「火災による火熱に当該火災が終了するまで耐えること」が定められており、最も厳しい基準です。

【参考】e-GOV|建築基準法 第二条 九の二

準耐火建築物

出典:国土交通省,建築基準法制度概要集,https://www.mlit.go.jp/common/001215161.pdf,参照日2025.5.27

準耐火建築物は、主要構造部を準耐火構造にした建築物が該当します。「延焼のおそれのある部分に防火設備を有する」ことが定められており、火災時の延焼防止や避難時間の確保を目的とした一定の耐火性能を持つ建築物です。

耐火構造が「一定時間の火熱が加えられた場合であっても、損傷などが生じない構造」なのに対して、準耐火構造は「一定時間の火熱が加えられている間、損傷などが生じない構造」となります。つまり準耐火の場合、火熱が加えられなくなった後の損傷についてはある程度許容されている点が大きな違いです。

【参考】e-GOV|建築基準法 第二条 九の三

その他の建築物

耐火・準耐火建築物に該当しない一般的な建物を指します。木造や鉄骨造で構成されることが多く、火災時に構造部や内装が燃えやすい点が課題です。

そのため一定規模以上の特殊建築物に該当する場合には内装材に関する制限が設けられ、難燃または準不燃材料の使用が義務付けられています。

内装制限で用いられる材料の種類

出典:国土交通省,建築基準法制度概要集,https://www.mlit.go.jp/common/001215161.pdf,参照日2025.5.27

内装制限を受ける建築物では、専用の建材を用いる必要があります。耐えられる加熱時間の長さの順に「難燃材料>準不燃材料>不燃材料」が規定されています。

それぞれの特徴や違いについて、ぜひチェックしてみてください。

難燃材料

性能(加熱時間)告示仕様(代表的な材料)認定番号
20分間H12 1400号
コンクリート・れんが・瓦・陶磁器質タイル・金属板・モルタル・ロックウール・厚さ5mm以上の繊維混入ケイ酸カルシウム板・厚さ12mm以上の石膏ボード 等
NM

準不燃材料

性能(加熱時間)告示仕様(代表的な材料)認定番号
10分間H12 1401号
厚さ15mm以上の木毛セメント板・厚さ9mm以上の石膏ボード 等
QM

不燃材料

性能(加熱時間)告示仕様(代表的な材料)認定番号
5分間H12 1402号
厚さ5.5mm以上の難燃合板・厚さ7mm以上の石膏ボード 等
RM

「消防法」と「建築基準法」の内装制限の違い

出典:国土交通省,今後の建築基準制度のあり方について,https://www.mlit.go.jp/common/001022877.pdf,参照日2025.5.27

建築物を火災から守る法律には「消防法」もあります。

まず「建築基準法」の内装制限は建物を新築・改修する際に適用され、主に壁や天井の内装材に不燃・準不燃材等の使用を義務付けているのが特徴です。これにより、火災時の延焼防止や避難経路の安全確保を目的としています。

出典:総務省消防庁,消防法令における主な規制の概要,https://www.fdma.go.jp/singi_kento/kento/items/yobou7.pdf,参照日2025.5.27

一方で「消防法」の内装制限では、消火・警報・避難設備等について定められています。また建築基準法では規制範囲対象外の「床面1.2m以下の部分」は、消防法だと規制対象となる点も大きな違いです。

建築基準法改正|内装制限の緩和

2022年の建築基準法改正により、内装制限が大幅に緩和されました。この改定により、中大規模木造による準耐火建築物に関する設計手法が大きく変化しています。

①3000㎡超の大規模建築物の全体の木造化の促進

出典:国土交通省,改正建築基準法について,https://www.mlit.go.jp/common/001576404.pdf,参照日2025.5.27

高さ16m超え、4階建て以上や延べ面積3,000㎡を超える建築物について、耐火建築物・耐火構造以外の方法が選択できるようになりました。あたらな木造化方法が導入されたことで、大規模建築物の木質化を図ります。

②大規模建築物・低層部分の木造化の促進(防火規制上、別棟扱い)

出典:国土交通省,改正建築基準法について,https://www.mlit.go.jp/common/001576404.pdf,参照日2025.5.27

これまでの大規模建築物では、壁・柱・床などの全ての部位に例外なく一律の耐火性能が要求されていました。しかし防火上他と区画された範囲であれば、木造化が可能になりました。

さらに延焼を遮断する壁等を設ければ、防火上「別棟」として扱われることになったため低層部分の木造化も実現可能です。

内装制限の範囲内で「木材」をより多く使う方法|国交省も推奨

出典:国土交通省,ここまでできる『木造建築のすすめ』改訂版(令和7年3月),https://www.kiwoikasu.or.jp/technology/406.html,参照日2025.5.27

国土交通省『ここまでできる「木造建築のすすめ」』を発行し、建築物のさらなる木材利用を推進しています。建てたい用途別に適用される法令が整理されているため、設計ガイドとして役立てられるのが特徴です。

ここでは「室内で木をより多く使う方法」としてまとめられている内容をご紹介します。

【参考】国土交通省|『ここまでできる「木造建築のすすめ」』

天井が高い小規模区画にする

「床面積100㎡以内で天井高3m以上」の居室の内装には、木材を使用できます。ただし他室との間仕切壁や、防火設備による区画と用途等の条件を満たす必要があります。

天井に準不燃を用い、他を木質化する

出典:国土交通省,ここまでできる『木造建築のすすめ』改訂版(令和7年3月),https://www.kiwoikasu.or.jp/technology/406.html,参照日2025.5.27

特殊建築物等の居室では、天井面と壁面に難燃材料を張ることが必要です。しかし天井を石こうボード等の準不燃材料にすれば、壁の仕上げに木材を使用できます。

ただし下記の条件を守る必要があるため、注意しましょう。

  • 木材等の表面に火炎伝搬を著しく助長するような溝を設けない。
  • 木材等の板厚は25㎜以上とする。
  • 一定の条件に合えば、板厚10㎜以上の木材等も使用できる。

「大臣認定材料」で木質化する

不燃材料・準不燃材料・難燃材料には、告示により仕様で規定された材料のほかに、「大臣認定」を取得している木材があります。こういった建材を使えば、建築物の条件や規模に関わらず内装を木質化可能です。

出典:DAIKEN,グラビオUS,https://www.daiken.jp/product/DispDetail.do?volumeName=00001&itemID=t000100002421,参照日2025.5.27

たとえばDAIKENの「グラビオUS」(国土交通大臣認定不燃材料 NM-4389)は、突板の風合いと質感が魅力の不燃壁材です。スギ、ヒノキをはじめ7種類の樹種バリエーションがあるので、住宅や店舗のインテリアに応じて選べます。

まとめ

内装制限は火災時の延焼防止や安全な避難確保を目的として、建築基準法により定められた規定です。特殊建築物や無窓居室、大規模建築物等に対して、建物の用途・規模・構造により不燃・準不燃材の使用が義務づけられています。

建築基準法改正では木材利用を推進する方針のもと、一定の基準を満たした木材の内装使用が可能となるなど、防火と木材活用の両立が図られています。国土交通省による「木造建築のすすめ」といった資料を活用して、ぜひ木質化に取り組んでみてはいかがでしょうか。